第7話 海の底の文明社会
見た目に反して、なかなかの乗り心地のドローン。
この星の生物で亀という生物に擬態してるとのこと。
その割には、屋根が、幾何学模様、しかも空気や水の抵抗を考えてかRを描いているんだもの、非文明化が下手よね。こんなの文明人が見ればすぐにドローンって分かるじゃないの。
魔力を頭に見立てたコンソールに流すと、透明なドーム型のシールドが張られる。
空中でも水中でも、シールド内を保護するようね。
視界も良好。
海、というのは、本当に地上と似たような土地で、でも、一つの星の一部に水が張ってる、っていうのが、こうして見てるとよく分かる。
重力とか浮力とかの関係や、酸素なんかの器官活性化エネルギー用元素の取得問題で、生命の形態は違うけどね。
太陽の光が届かない、というだけで、世界の色は違うもの。
それはそれで美しい光景が目の前に広がっている。
地上では地を這う生き物も多い。
鳥や虫の一部が飛行するけど、知的生命体は地をゆくのみ。
でも、水中では足をつけて移動するという手段をとる必要はなさそう。
ほとんどの生命がヒラヒラと移動する。
中には集団になって移動するもの。
大きな生物に影のようについて移動するもの。
興味深いったらありゃしない。
深度が増すにつれ、圧力は上昇しているよう。
頭の中にそのモニターされた圧力やら深度なんかが報告される。
といっても、このぐらいの圧力ならシールドに問題なし。
問題があったら、そもそもこのドローンが存在してないか。
太陽の光をキラキラと内包する表層から、徐々に漆黒の海底へと移りゆく様は、なんだか、宇宙空間に似ている。
星の重力を離れ、広大な宇宙へと旅立つあの独特の開放感と寂寥感。
音すらも遮るこの闇の空間は、うすら寒く、また、母の胎内でのまどろみにも似ている。
て、私も意外と詩的よね。
なんたが、久しぶりに文明の片鱗に触れて、ホームシックになったみたい。
と、感慨に浸っていると、遠くにぼんやりとした明かりが見えてきた。
そこは海底。
だけど、まさしくそれは文明の明かり。
そうね。
文明って明かりなのよ。
原始に火を使うことから、文明の1歩を踏み出した。
どの星でも習うこと。
種族によって、その見える波=周波数や見え方は違うけど、見えないってことは恐ろしい。
だからどんなときでも見える手段を欲するもの。
生きるために危険を減らそうと工夫する。
その手段として明かり。
見えないものを見せる媒体。
まぁ、逆に明かりがダメな種族もいるし、周囲を把握する手段として、私たちが視覚と呼んでる機能をそもそも持たない種族もいるけどね。
それはそれ、進化の過程が違えば機能も違う。
少なくとも、この星に流されるような進化を遂げた文明人なら、って話。
私も、そしてまだ見ぬ乙姫とやらも、同じようなヘルツ帯の視覚情報で外部把握をする機能が備わっているって事ね。
ボンヤリと見えていた光が、瞬く間に広がる。
竜宮城。
そんな風に聞いていたけど、城だけじゃなくて、まさに基地。むしろ村レベル?
私や地上の人間に近い容姿を持つ者から、魚に近い容姿の者、どちらも取り入れている者。様々な人達が、この村の中をせわしなく行き交っている。
きちんと整備され、明かりを配し、道を敷き、地上よりもよっぽど文明的な社会を形成していた。
当然、文明の花というべき服だって着た、正真正銘の文明人たちが、そこかしこを闊歩している。ああ、これ、比喩ね。歩くんじゃなくて泳いでるから。むしろ宇宙空間で移動する様式に似ているかもしれない。
亀と呼ばれるドローンは、涙が出るくらい懐かしい、文明社会の中をスイスイと泳いで、中央にあったひときわ大きく美しい建物に到着する。
駐機場、てことかしら。
大小同じように亀型ドローンが並ぶ、その列に、私が乗ったドローンも止まったわ。
そして、シールドがゆっくりと、開けられる。
「乙姫様がお待ちです。」
キョロキョロと周りを見回している私に、ピッタリスーツの頭は魚、でも2本、ううん3本足の紳士が寄ってきて、頭を下げた。
私は、ドローンから立ちあがり、彼について、その駐機場を出る。
ここいらは乙姫の好みか、水がなくて、地上に近い空気で満たされているようね。
ウィーンと開くのは当然自動ドア。
宇宙船と同じ素材かしら、発光する壁に囲まれると、なんだか安心感がすごいわね。
最初は面白いと思った、木と紙の家。
でもやっぱり、セキュリティに問題ありすぎなのよね。
いくつかの扉を通り過ぎ、まさに接待の間、だろう部屋に到着。
乙姫、なんて名乗るのだから、ちょっとそうじゃないか、とは思ったんだけど、まぁ、なんていうか乙女チックなお部屋だこと。
ふんだんにレースを使ったその内装。
屋根から、ドレープをたっぷり取ったレースをこれでもかと、柱に向かってひっかけていて、それらがみな、赤やピンクといった乙女感満載の色使い。
猫足大理石な雰囲気のテーブルや椅子、サイドボードといった家具たち。
そしてこれまた、ピンクと白を基調にしたレースを身に纏う、少女趣味な女が一人。こちらを見て、優雅に微笑んでいる。当然のように、部下であろう乙女なドレスに身を包んだ、容姿の優れた女を両サイドに配置して、ね。
「はじめまして。私は乙姫。この屋敷の主ですわ。」
立つこともなく、足を組んだまま、右手の彼女に扇で仰がせつつの、そんな名乗り。
まったく、礼儀も何もあったもんじゃない。これだから犯罪者ってのは・・・
「かぐやよ。あんたと同じ境遇の文明人ってとこね。」
だから、私も、負けないように胸を張り、傲慢に言い放ってやったわ。
(勝った!)
私は、そう言いながら、彼女の胸を見て、フンと鼻をならしてやったのよ。
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