第6話 亀、ゲット
海。
星の生命を育むゆりかご。
たくさんの塩基がたゆたう、星のシャーレ。
この星は、かなり海の割合が多いらしい。
初めての生命は、ご多分に漏れず、この芳醇なカオスから生み出されたのだろうことは、簡単な科学レベルの知識でもっても、容易に想像出来る。
そして
「海~!」
そんなカタッ苦しいことはどうでもいい。
なんだろう?
単なる水の塊に過ぎないのに、この開放感!!
青い海。輝く太陽。白い砂浜。独特の香りの風。
何故か心の奥を刺激して、根源的な高まりを感じさせるのよ。
海ぃ~!
私はすべてを脱ぎ捨てて、産まれたままの姿に・・・・は、さすがに無理か。
脳内でウハハキャハハと水遊びをしつつ、そのところどころ岩の生える砂浜を眺めた。
************************
「従者を連れて再び巡礼の旅に出ようと思います。」
そうこの国の作法に従って、三つ指ついて報告したのは、数日前のこと。
貴族たちと交流を持つことの方に価値を見いだしていたおじじとおばばには、年老いた身を案じて残るように言う私の言葉は渡りに船。大喜びで送り出してくれたわ。
従者を連れて、と言ったもののそんなのは言い訳よ。
だいたいそんな大仰な牛車に乗っての旅で、私の目標は達せられないもの。
玄関出て町を出たところで、暗示をかけて解散し、お貴族様な十二単はお払い箱に。普通の旅人ルックに身を包んで、馬を手に入れた私は、一人、旅に出た。
馬?
馬は贈り物にあったからね、一応乗れるようになってるわ。
ていうか、魔法で意思疎通できるもの。
そうして到着した私。
文献で見つけた、竜宮城なる水中施設へとほど近い砂浜。
まだ未開のこの地に、港、なんてものがあるわけもなく、基地的な何かもないのだけれど・・・
と、岩場の影に人影が見えたので、私、そちらの方に馬を進めたのだけれど・・・
「あんたたち何やってんの?」
木の棒でなにやらつついている現地人数名。まだ子供かしら?
声をかけたら、驚いて、木の棒を背中に隠したわ。
私はにっこりと、子供たちの返答を待つ。
あらあらおませさん。
美人に微笑まれて、顔が真っ赤になってるじゃない。良い子たちねぇ。
「えっと・・・・別にいじめてる、とかじゃなくて・・・」
1人の子がしどろもどに言ったの。それに合わせて他の子たちがブンブンと頭を縦に振る。これは肯定、って意味のこの地のジェスチャーね。
「これ、亀みたいな妖怪なんです。」
「海から出てきて、飛んでたんだ!」
「やっくんが、石を投げたら当たって!」
「落っこちたから、そうっとここまで運んだんだ!」
「ブィーーーンてヘンな音がした。」
「触ったら危険だから、木でつついてたんだ。」
口々に言う子供たち。
なるほどなるほど。
つついてたのは、海から飛び出したこの物体ね。
私は、それに近づいてしっかり観察したのよ。
「あ、危ない。その、亀だけど亀じゃないんだ。飛ぶんだ。」
「あ、そう。私は大丈夫よ。心配してくれてありがと。ねぇ、ものは相談だけど、これ、私にくださらない?」
「でも・・・」
「ダメ?」
私はだめ押しに目をうるうるさせた。
「!ダメじゃないです!」
「どうぞどうぞ!」
私はお礼に額にキスをしてあげた。まぁ、かわいいこと。みんな真っ赤になって、逃げるようにして去って行ったわ。一人なんて気絶までして仲間に運ばれていったのよ。ウフフフ。美しさは、罪ね。
私は一人になって改めて、その「亀」と呼ばれていた物体を見たの。
うん、間違いない。
これは文明の証。
魔力エンジンだって感じるわ。
人が2人ほど乗れるサイズね。
ドローンってことかしら?
私は、その物体の感覚器官であろう顔のように出っ張った部分に向かってにっこり笑った。どうせこの様子はモニターされているわよね。
『はじめまして。私、追放刑中のものなんですけど、あなたもですよね?お話しとかできませんか?』
そうテレパシーでドローンに発信してみたけど、案の定、ね。そのドローンは反応したわ。
『宇宙人?はじめて見たわ。』
いや、あなたもでしょ?
『こんにちは。私この星ではかぐや姫なんて呼ばれてる者です。MP10000なんて目にあってんのよ~。あなた先輩よね?違う?』
『まぁ、そうね。私はこの星では乙姫よ。まぁ、いいわ。案内するわ。その亀形ドローンの背に乗って魔力を流してごらんなさい。シールドが張るから水中でも大丈夫よ。自動操縦だから、海の中を楽しんで。』
そうそう。
私たちは一応犯罪者ってことになってるじゃない?
本名は、刑を終えた後のことを考えると伏せるのが当たり前。ってことで、流刑先で同じく流刑者に会っちゃった場合、本名は伏せるのが吉。名前の感じだけでどこの星の出身か分かるし、そもそも発声器官の問題で、音に出せない場合もあるからややこしい。で、ほとんど同時期に同じ星に流刑者がいることはないんだけど、仮にあったら、現地語の名前で付き合うのがベターってのは、流刑になるときの講習で聞いてたのよねぇ。
でも、そうなのよ。
秘境の星、文明の未発達の星なんてのは、それこそ星の数ほどあるのよねぇ。
生まれた星によって、呼吸の問題とかもあるし、大気組成が生身でもOKな星に流されるってのは人道的見地から言っても当然なんだけどね。それでも、その流刑者に合う星なんて、この銀河系ではいくらでもあるわけよ。
だから、同じような流刑者と出会う確率、ってのはかなり低いハズ。
だからね、ここで、こういう形で生存中の流刑者と遭遇する、ってのは、少々緊張する。一体何者なんだろう?最低限、犯罪者であることは間違いないのだから・・・・
それでも私が語りかけたのは、やっぱり文明人がいるなら接触したいって気持ちもあったことと、システムだけなら残ってる可能性も大きいから、無人の基地を手に入れられるかも、って思ったところに、あきらかなる文明の証=ドローン。どうせシステム受け渡しにはテレパシーで接触する必要があると思っての、声がけだったわけよ。
でも、そんな思惑も何のその。
相手は、いまだにこの星にいて、私を招待してくれるという。
それなら、びびってなんていられないわ。
女は度胸。
ご招待応じようじゃありませんか。
私は、そのドローンの上に座って、ゆっくりと魔力を注ぐ。
すると、不可視のバリアが私ごとドローンを包み、ゆっくりと浮上したのよ。
いざ、海中へ!!
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