第5話 そうだ、海へ行こう!

 宗教施設が魔力溜りだと気付いて、お社を求め旅をして帰った今日この頃。

 私の身長は、おかげさまで、現地人ぐらいになったけど、そろそろ頭打ちなのよねぇ。もっと、濃縮された魔力をゲットできる術はないかしら。

 そんなことを悩みながら、豪邸となったお屋敷で外を眺める私。


 私の美貌は、この界隈だけではなく、遠くの町まで伝えられるようになった今日この頃ではあるのだけれど・・・

 まぁ、当然よね。私には簡単な変化の魔法だけじゃなく、精神汚染の魔法はむしろ得意とするものなんだもの。

 てことで、パッシブで魅了チャームの魔法をかけている私。


 いやね。そんなことせずとも私は美しいし魅力的だと思うのよ。

 けどねぇ、ここの現地人の美意識は、私の物とはズレてるしね。

 彼らの好きに変化してもいいけどね、むしろ私が耐えられないっていうか・・・


 それにね。時代や地域によって美醜は様々に変わるもの。

 それだけじゃなくて、好みなんてのは、言ってみれば千差万別。蓼食う虫も好き好きなんて言葉もあるでしょ?

 だったら、誰もが自分の好み!てなる方が良いじゃない?

 あ、ちなみに、別に私がもてたいからみんなことするんじゃないんだからね!いや、もてたいからなんだけどさぁ。そのもてたい理由は、別に自己満足のためじゃない。


 なんかね。私のことが評判になると、顔も知らないのに、付き合いたいなんていう貴公子がポコポコ湧いて出てきたのですよ。

 でね、私の気を引こうと、なんか短歌っての?妙ちくりんな歌を捧げてくるのよねぇ。めんどくさって思ってそれらを放置してたらね、なんか、勝手に深窓の姫君とか思っちゃって、思いをエスカレートしてくるわけさ。

 で、贈り物っての?私の気を引こうと貢ぎ物もバンバンしてくるようになったのよねぇ。ま、おかげで錬金術で金を作る必要もなくなったんだけどね。


 でね。贈り物を持ってくる貴公子ってのが、なんていうのかさぁ、ものすごく狭い世界みたいでね、誰が何を送った、とか、知ってるらしくてね。贈り物合戦がエスカレートすること、まぁ、いくら倉庫を増築しても間に合わないったらないわぁ。

 服に宝石、珍しい食べ物とかね、偉い人なんかは、周りから近づこうと、おじじやおばばに貢ぎ物を渡す始末。中には、貴族の地位なんてちらつかせるこの国の施政者に連なる人もいたりして・・・


 まぁ、実際、気がつくと、高貴な人、ってやつに私だけじゃなくおじじもおばばも連なってたって感じ?


 それはいいとして・・・


 家族もろとも裕福に暮らせば暮らすほど貢ぎ物の質も上がっていってね、私、気付いたのよ。「伝説の・・・」とか「まぼろしの・・・」なんていうものの中には、結構良質な魔力を封じ込めてるお宝があるってことを。

 でね、コレは伝説の宝物ってもんを調べて、それをゲットするのも手かな、って思ったの。


 私は、何が欲しいか、って聞かれると、伝説をいろいろ知りたいわ、って答えるようにしたわ。露骨に伝説の宝物ちょうだい、っていうのもねぇ。

 それに、伝説っていうぐらいなら、それなりの逸話とかあるかな、とも思ったのよ。で、そのもの、ってより、それを記された文献が読みたい、って形でねだったのね。


 人ってさぁ、いろいろ考えるもんねぇ。

 まぁ、私の真意を知らないから仕方ないけどね、かぐや姫は書物をお望みだ。美しいだけではなくなんて聡明な方なんだ、なんて、評判はさらに上がっちゃったのよねぇ。もちろん、魅了の魔法のおかげも少しぐらいはある、はず、だけどね。


 それからというもの、私の元には、珍しい伝説を記した書物がたくさん集まってきたわ。


 まだ、この星の文明は初期も初期。といっても服飾文化がそれなりに進んでいることを考えると、原始人、とまでは言えなさそうね。

 どんな星でもだけど、まずは、現存している情報の共有から始まるのよね。

 で、その後に、歴史の編纂、なんかが必要になる。

 そうなると、口伝から書物による伝達へと発展する。

 で、本というものが産まれる。


 本が産まれた当初ってのは、大体が「写し」という形を取る。

 複製の技術ができるのは、さらに文明が進んだ後。

 ここの文明はまだ手書きでの写しの文化みたいで、書物ってのは、貴重品。貴重品に記されるのはそれなりに価値がある事項、って考えて良い時代。識字率も伝達媒体も、まだまだ未発達なこの文明だからこそ、この本を読むことができるってのは、貴重な情報に到達できる率が高いってことよね。


 で、私は、たくさん得た本から、伝説級の宝物や、不思議な場所の話を漁ったのよね。


 そんな中、1つ気になる記述が・・・・


 どうやら、私と同じタイプの流刑者いるんじゃないの?って思ったのよね。


 ていうのは、「竜宮城」っていう海の底にある理想郷の話を見つけたの。

 そこでは、魚たちに傅かれて、女神が海を支配してるって書いてあるのよね。

 おじじやおばばに聞いたけど、この星には水棲の知的生命体はいないらしい。

 てことはよ。この星の外からやってきた、ってことじゃない?

 仮に水棲じゃなきゃ、水中に生存環境を整えられる技術水準を持つ者ってことでしょ?

 それに。「女神」「乙姫」なんていう表記。

 基本的にこうした流刑って女が多いのよね。

 男尊女卑、とかじゃなくて、不思議なんだけど、子供を産む力を持つ者の方が、基本的には魔力が多いみたい。これは宇宙的せかいてきな基準で、分かってる事実。で、流刑ってのは基本的には魔力を吸い取られて、元の姿=魔力水準に復帰するまで文明から遠ざけるっていう刑なんだけど、男、つまりは、直接次代を産むことなく、遺伝子を交配するためにいる種族っのは、そこまで吸い取られると死亡してしまうことが多いんですって。魔力を復活させることができるのは、女っていう種族の特別な仕様、ての?だから、流刑者は基本的には女なのよね。

 男には、別の刑罰が科されることがほとんどってわけ。


 それにしても・・・・


 この竜宮城、何が気になるって、ひょっとしたら、まだ流刑者が留まってるかもしれない、ってこと。先輩がいれば、魔力収集のことも聞けるしね。少なくとも海中に文明を再現できるだけの魔力は貯めてるだろうから、ノウハウを教えてもらえればラッキーってね。


 で、仮に、よ、もう刑期が終えてるとしても、海中基地なんてのは、放棄してるはず。文明社会のレベルの居住空間があるなら、きっと今みたいに原始レベルの生活水準以上の暮らしが出来るじゃない?水棲生物がいないなら、私一人で優雅に使い放題。これをゲットしないなんてあり得ない。


 てことで、私の次の目標は、乙姫、なる流刑者(と思われる人)を探して海中基地を見つけることにしようと思うの。

 旅、については、今までもしてきたし、一応問題ないでしょうね。

 おじじとおばばは、貴族との付き合いに夢中で、私の動向はそろそろ気にしていないみたい。まぁ、放任主義といえば格好がつくけど、飴を与えたらどこまでも甘味を追求するのは、理性を培ってきてない原始人なら仕方ないわよね。ウフフ。いずれにしても、私にも好都合だし、てきとうに従者を見繕って、巡礼の旅とでもいえば、機嫌良く見送ること間違いないわ。


 私、そんなわけで、分厚い衣を脱ぎ捨てて、近々、再び旅に出ます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る