第3話 黄金の竹

  めんこい小さな女の子は、なんとまぁ、もうおしゃべりができた。

  金に輝くその姿は本当に神々しいが、普通の子供は輝いていないのか、などと聞く姿は、まさに純粋無垢な赤子にすぎない。

 神に与えられたこの子をたいせつにそだてねばなぁ、とばぁさんと話して、たとえ普通でなくてもきちんと愛することを誓った。


 この子のことはなぜだか、「かぐや」と頭に浮かび、そう名付けた。

 我が愛しのかぐや。かぐや姫じゃ。

 小さい身体に合うように竹籠でゆりかごを作って寝間とした。

 あちこちから集めたきれいめの端切れを敷き詰めたが、布というのは、こういうものか?などと不思議そうに聞く。

 「まぁ、儂らのような平民はこんなもんじゃ。じゃが神の子かぐや姫にはお貴族様のようなべべが似合うだろうなぁ。甲斐性がなくてすまんのぉ。」

 「ううん。あったかいお布団があるだけで十分です。」

 「せめて少しでも錦があれば。その小さい身体なら、いい服もつくれようになぁ。」

 「錦?それはどうすれば手に入るの?」

 「かねさえあればなぁ。」

 「かねかねきんでまかなえる?」

 「そりゃぁきんがあればのぉ。」

 「だったらきんを作りましょう。」

 「ほっほっほっ。それはいいのぉ。いつか作れれば大金持ちじゃ。ホッホッホッ。かぐやはホンに面白いことを言う。」

 「いえいえ、養ってもらえるなら、ちゃんと差し上げますよ。」

 「わかったわかった。それはうれしいのぉ。」


 とまぁ、ばぁさんと一緒に昨日は笑ったもんじゃったが・・・



 今日も今日とて、竹藪に来た。

 今日はゆりかごに乗せたかぐやも一緒じゃ。

 自分が入っていた竹をもう一度見たい、と言う。

 お安いご用、とつれてきた。

 到着すると、とてとてとかわいい足で走ってゆく。

 「遠くに行くでないぞ。」

 「はぁい。」


 うん大丈夫じゃろう。


 儂は昨日のしそびれた仕事=竹の伐採を開始した。



 ************************


 カァーーン、カァーーン・・・


 小気味いい音を響かせて、竹を切るおじじ。

 自分をそう呼べと言っていたその雄は、どうやらこの星ではとうに老人と呼ばれる年齢で、長生きの方だという。

 まだ70で生死を考えなきゃならないなんて、やっぱり未開の住民にはなれないわね。私は、そんな風にこそっと思ったわ。


 仕事、と称して竹を切るおじじを尻目に、私は一路ロケットの下へ。


 すでに光を落としてドアも閉まってたけど、私の生体信号を感知して、すぐに起動したわ。よかった。

 あ。光ったのを見て、おじじがびっくりして振り向いた。大丈夫よ、って手を振ると、そうか、と言って仕事に戻る。

 何も分からない知能で本当によかった。

 これが中途半端に文明が発達してたら好奇心で近寄られちゃうところよねぇ。

 私は、ドアを開けるように命じて、最低限のサバイバル用に与えられたキットを持ち出した。


 キットはすべて小さな玉に入っている。

 一見石で出来ているように見える小さな穴を開けられたその玉は、実は道具入れ。

 どんな未開の地でも石を簡単に加工したアクセはある。まぁ、初期文明の証、てきな?

 だから流される囚人にはこういう形の道具入れを渡される。

 さすがに身1つで流すほど、非人道的な刑は行わない、ということね。

 最低限の食事、を、現地で調達できるようなグッズ、とか、未開の地では手に入らない薬、道具エトセトラ。


 私はその玉の穴に、今朝おばばにもらった植物性の紐を通して首から吊した。

 そして、中の物を確認するため玉を握って集中する。

 『アイテムオープン』

 心の中で唱えると、頭にウィンドウが浮かび、玉に入っている道具類がリストとして確認できる。


 あ、あった。

 変身の指輪。

 そして。

 錬金術のガラス瓶が10個。


 私はその2種を出す、とイメージする。

 次の瞬間には私の足下にその2つが転がった。

 まずは指輪。

 この小さな身体だけど、指に嵌めると、ピッタリフィットする魔法がかかった指輪。

 変身、と言っても、身体の大きさは変えられない。

 身体のパーツの色が変えられる程度の安い物。

 もちろん、高い物だと顔かたちはおろか、種族さえ替えられる物もあるけど、囚人に与えられるのは現地人に溶け込めやすいように、軽く外見を替えられる程度の物だけね。

 昨日、あの後聞いたのだけど、老人だから髪は白い物が混じるんだって。

 若い者は黒髪。なかでもカラスの濡れ羽色、なんてのに価値があるらしい。女はそり長さも美しさ、だとか。

 カラスの濡れ羽色、よくわかんない。鳥の名前らしいし、今度その羽を濡らして、美人の髪色を確認しなきゃね。

 とりあえず、瞳の色だけは黒に変えておこう。


 錬金術のガラス瓶。

 これは、現地の土や水から特定の鉱物を抽出するための道具。

 土の中に、金は混合している。

 これを使って金を抽出。

 私の魔法テクニックなら設定は簡単ね。


 ちょっと調べたらここの土はなかなかに優秀で含有率も多そう。

 ただそれなりの土の量も必要、ってことで、またまた安価な物しか入っていない囚人仕様の道具よねぇ。

 魔力を削られる前の私なら、ごっそりと土を掘り返し、そこから必要量の金を抽出、なんて、それこそ10回も呼吸する間にできたのになぁ。

 パッと見た感じ、200cc程度入りそうな、このガラス瓶1本を作るのに、この星で1昼夜はいりそうね。

 土の上に置いて、必要量の魔力を注ぎ、後は放置で良いけれど・・・

 他の人に見つかったらまずい、わね。

 私はおじじの目を盗んで、いくつかの竹の根元に瓶を仕込む。

 少し魔力を注ぐと、根が瓶を包んで育ち、みるみる竹に育ったわ。

 この竹の中で一晩過ごせば瓶にいっぱいの金ができる、予定。

 瓶がいっぱいになったら光るよう設定したので、どの竹かは一目瞭然。

 明日またここにつれてきてもらおうかしら。


 今日の仕事を終え、ロケットに腰をかけておじじの仕事が終わるのを待つ。


 昼ご飯にいただいたおにぎりという穀物のかたまり。

 お腹がすいていたからまぁまぁ悪くないんだけど・・・

 たくさんの穀物は、ヘルシーそうだけど、食べにくいわね。食感も匂いもちょっと苦手かも。

 おじじによると、お金持ちは白米というのを主食とするらしい。

 一度お貴族様にごちそうになったことがあるんだが、かぐやにもそれを食べさせたいのぉ、なんて話を聞きながら、お昼をいただいたわ。

 うん。白米ね。

 おいしいのかしら。

 やっぱり食も大事よねぇ。

 どのくらいあれば、最低限の文化的生活ができるのかしら。

 分からないけど、当分私の仕事はこの金の生産ってことになりそうだわ。

 ああ早くまともな生活が出来るように頑張らなくっちゃ。


 私は、そうして辺境の星2日目を労働と共に終了した。

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