ダチョウの卵乗せキムチラーメン

赤城ハル

第1話

 秋といえば秋刀魚、松茸、栗が挙げられる。

 しかしだ。秋だからといって秋の風物詩しか食べてはいけないのかといえば、それは違う。風物詩関係なく何を食べたっていいじゃないか。

 というわけで私が今日、夜食として取り上げるのは特別なキムチラーメンだ。

 土鍋に水を注ぎ、沸騰させる。そして豚肉、ウインナー、キムチスープの素を入れる。

 豚肉とウインナーに火が通ったら次にニラと縮れ麺を2玉を投入。

 キムチラーメンにはストレートではなく縮れ麺が合う。

 麺2玉とは夜食にしては重いと思われるだろう。だが、今日、私は晩御飯を抜いた。ゆえに問題はない。むしろ遅い晩御飯みたいなものだ。

 ぐつぐつと煮込み続けるとキムチの匂いが鼻腔を刺激してくる。

 キムチラーメンはキムチではない。

 急に何をと思われただろう。実は以前、母はキムチ鍋の時、キムチと名をうたれているなら漬物のキムチを白菜の代わりに入れても問題ないと考え、キムチ鍋に投下したことがあった。

 その時は本当に最悪だった。普通なら野菜は煮立ってふやけるのにキムチはコリコリしていた。さらに酸っぱい。漬物の味が半端なかった。キムチ鍋はスープがキムチ風もしくはキムチ味の意味だ。あれだと温めたキムチだ。

 と、そんなことを思い出していたら麺が茹で上がった。さて、あとは前もって茹でいたモヤシと卵を入れて完成だ。

 その卵とはダチョウの卵である。

 ラグビーボール並みの大きさで重い。

 タオルをひいて、その上にダチョウの卵を立てる。

 そして俺はスプーンで卵を突っつく。卵の頂きから腹までの間を小さい穴を作るように、ヒビを生むようにスプーンで突っつく。早くしないと麺が伸びてしまう。かと言って、乱暴にしてはいけない、殻が入ってしまう。入らないよう慎重に。

 キツツキが木を突っつくような断続的な音が台所に鳴り響く。

 そしてなんとか割れ目が一周して殻の帽子が生まれた。

 殻の帽子を外して中身を確認。

 大きな黄身がぷかぷか白身に包まれて浮かんでいる。

 ダチョウの卵だからといって黄身は別段変な色をしていない。緑でもないし、黒でもない。普通の黄色。

 俺はゆっくりとキムチラーメンの上に乗せる。

 透明な白身は徐々に白くなる。黄身も艶がなくなり、固さを持ち始める。


 ミトンを両手に嵌めて土鍋をリビングに運ぶ。

 それから先に作っていた鮭のフレークを入れたおにぎりを運ぶ。海苔は湿気でしなしなだが、それでいい。勿論パリパリの海苔も好きだが今日はしなしなが恋しいのだ。

 そして冷蔵庫に冷やしていたビールジョッキをだす。ひんやりとしていて、表面は靄がかかっている。ただし入れるのはコーラ。実のところ私はアルコールが苦手というか下戸なんです。

 氷をたくさん入れてコーラを注ぐ。

 ジョッキの中では氷が音を立て、コーラがシュワシュワと弾ける。コーラを持ってリビングへ。これで夜食は全部揃った。

 録り貯めていた日常モノのアニメを見ながら俺はキムチラーメンをすする。

 辛い、けど旨い。

 コーラを飲み、辛さを中和させる。

 今度は半熟の黄身を潰して、麺を絡ませるそして俺はずるずると音を立てて麺を啜る。黄身のおかげで辛さはマイルドになる。


 ここでトリビアだが、海外では食事で啜るという行為はほとんどないらしい。

「え、パスタは?」と思われるがあれはフォークで巻いて口に入れるのであって、啜るではない。だから日本人がパスタを啜って食べるのはマナー違反。マナー違反といえば音もそうだ。音を出すのもマナー違反という国が多い。

 だからといってラーメンがマイナーな料理といえばそれは違う。昨今では海外でもラーメンが認知されてきている。世界各国でラーメン店も生まれている。そして面白いことにラーメンはなぜか日本食と誤認されていることが多い。

 あ、それともう一つ、アメリカではラーメンはぬるいものが多い。理由としては熱いスープだと火傷したとかで、いちゃもんつけられて訴訟されることがあるからだ。

 やはり訴訟大国。怖いね。

 それを考えるとキムチラーメンはなおさら危険であろう。熱くて辛くて舌も唇も大慌て。


 そんな熱くて辛いものを好き好んで俺は啜る。

 縮れ麺にキムチスープが絡み、噛めば噛むほど辛さが口内を刺激する。

 それをきんきんに冷えたコーラで相殺する。

 しかし、コーラを飲んでも辛さはまだ残っていた。それでもまたキムチラーメンを食べる。

 時折、おにぎりを食べては口のなかをしょっぱくさせる。

 そして麺だけではなく豚肉、ウインナー、ニラ、モヤシ、半熟卵を食べる。

 どれもこれもキムチスープに合い最高だった。

 すっかりキムチラーメンに夢中でアニメの内容が入ってなかった。そういうときは早戻し。録画だからこそ問題はない。さらに日常モノだから注意深く見る必要はない。

 それだと何が面白いんだと問われるが。何気ない日常でいいんだよ。飯を食べている時ぐらいは殺伐としたものや考え込むようなものいらいんだ。のんびりと頭を空っぽにして温かい目でキャラを見守るだけ、ただそれだけでいいのだ。

 俺はキムチラーメンを啜りながらアニメを見る。

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