辰砂ジンジャー辛苦味 6
顔の熱をハタハタ冷ましながら、ミコトさんの言い分を精査する。
間違ったことは言っていないのだろう。筋も通っているように聞こえる。
しかし、未だに警戒しているような、怪訝な表情を浮かべたままのネアが気になる。
「なあ、わざわざメグに頼まなくても、ミコトなら自分で採ってこれるだろ」
そこまで深い階層でもなし。
そう続けて呟かれた言葉を受け、私も訝しむ。
まさか本当に、私をおちょくるためだけに依頼したのではないのだろうか。
疑ってかかる私たちの視線を受け、観念したようにミコトさんは肩を竦める。
少しだけ怒らせた肩は、降参だと言っているようで。
「たしかに、メグに頼まんくてもわしが採ってこれる。そやけども、あかんのや」
訥々と語りだすミコトさん曰く、彼は京都で宝石商を営む社長の息子だという。
お客さんからの要望で、辰砂ジンジャーを用立てなくてはならなくなったのだが、彼は他にも手を離せない用事が詰まっているのだとか。
「ほんまはすぐにでも採りに行かなきゃならへんとは思うんやけども、ダンジョンに一度入るといつ戻ってこれるか見通しが立たへん。正直、空けられる暇がないんよ」
そこで、魔石を探している私に報酬として融通する代わりに、依頼品を採ってきてもらおうと思ったと彼は言う。
私は考え込む。
しばらく考えると、そっとネアの袖を引く。
「……ねえ、ネア」
「どうした」
「私、ミコトさんの依頼を受けたいんだけど、引率で着いてきてもらえる?」
まだ高校生。
仮にミコトさんの依頼を受けますと宣言したところで、引率者がいなければダンジョンの中には入れないのだ。
見下ろすネアと視線がかち合う。
しばらくにらめっこの如く互いの目を見て、ようやくネアが折れた。
「……分かった」
「本当?!」
ため息とともに得られた了承に、私は跳びはねる勢いで両腕を大きく上げる。
「ミコトさん! 依頼、受けられます!」
「おお、おお。おおきに、メグ。ネアも」
「まったく……。ミコト、依頼の詳細を詰めるぞ。納期はいつまでだ」
「そうやね。納期はできれば半月。長くても一ヶ月以内には」
「メグの予定次第だな」
ネアに、土日に予定が入っていないかを確認してほしいと言われたため、私は頭の中に残っているスケジュールを思い出す。
「……月末の最終土曜日はダメ。文化祭の準備が入っている」
「それなら、今週……それか、来週の土曜日はどうだ?」
「問題ないよ。あ、ただ、準備の時間が欲しいかな」
「今週は準備期間にしよう。採取は来週の土曜だ。いいか?」
「大丈夫」
とんとん拍子で決まっていく予定。
私は忘れないように、日付と時間をしっかり覚える。
あとで家にあるカレンダーに書き記せば、完璧だろう。
「そういうことだ。納品は半月と少し過ぎるくらいと見積もっておいてくれ」
「了解や。ああ、メグ。先に希望する魔石の属性を聞いておいてもええ?」
「魔石の、属性?」
きっと融通すると言っているからには在庫があるかを調べるのだろう。
本当であれば、使用する陽夏が決めるのが一番いいのかもしれない。
けれど、陽夏は今ここにいない。
携帯で電話をしても、きっと出ないだろう。
今は水泳をしている時間だろうから。
「……メインは水属性を使ってます」
「ほう、メイン?」
「なんか、後から特訓で火属性? の魔法も使えるようになったみたいで」
はぁー? と間延びした驚愕がミコトさんの口から流れ出る。
「二属性魔法使い?」
「って言えるのかな? 適性は水属性だったらしいです」
ミコトさんは難しい顔をして黙り込む。
どのような魔石にすればいいのかを考えているのだろうか。
しばらくして、ミコトさんはよし、と決断したように声を上げる。
「ほんなら、適正属性の魔石を使うた方が安牌やね。水属性で在庫を探してみるな」
そう言ったミコトさんに、私は頭を下げた。
「よろしくお願いします」
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