試験とモモ級回復ポーション 20

「陽夏送って来たよー」

「ありがとう。ご両親はなんて?」

「送ってくれてありがとうって。でも、遅くなってごめんなさいって謝ってきた」

「偉いわ、恵美」


 陽夏を家に届け、姉の待つログハウスへと戻って来ると、姉は鍋の中身をじっくりと煮詰めているところだった。

コンロは姉の作業で使われている。

今日は出前かな、なんて思いながら出前のチラシを取ろうと動く。


「おねえちゃん、何頼む?」

「んーと、何があるの?」

「色々ー。お寿司、釜飯、ピザとかパスタ……」

「ピザいいわね。ピザにするわ」

「オッケー。味どうする?」


 私は他のチラシをしまうと、ピザが書かれているチラシだけを姉のもとへ持って行く。

姉は一瞬目を離し、これ。と指さした。


「マルゲリータだね。私、照り焼きにしよー」


 携帯で店の番号を押し、待つことしばらく。

店の人が電話に出てきたため、ピザの注文をする。


「……はい、はい。お願いします」


 注文をし終え、住所を伝える。

内容を繰り返されたあと、電話は切れた。


「注文したよ」

「ええ、ありがとう」


 姉の方も、いい感じに煮詰まったのか、コンロの火を止めている。

机の上に用意されているのは、一口サイズの小さな立方体が作れる製氷皿。

百円均一に置いてあって、面白がって買ってきたはいいものの、使い勝手が悪くてお蔵入りしていた代物だ。

姉はそれに、鍋の中身を流し入れていく。


「きれー……」


 流し入れられる液体は、うんと煮詰めた結果なのか、低級回復ポーションの濁った深緑色ではなく、エメラルドグリーンと称してもいい、透明な粘性のある液体へと変わっていた。


 それは製氷皿のマスを次々と埋めていく。

最後のひとマスを埋め終えたとき、姉はようやく、深く息を吐いた。


「ふぅっ。やっぱり初めての試みは緊張するわね」

「お疲れ様。お茶飲む?」

「いただくわ」

「氷は?」

「一個お願い」


 氷を一個だけ浮かべたアイスティーを差し出す。

姉はそれを勢いよく飲み干した。


「すっごい根詰めてたんだね」

「かもしれないわね。もう一杯もらえる?」

「どうぞ」


 姉が差し出すグラスに、そのままアイスティーを注ぐ。

それも勢いよく飲み干された。


「わんこそばを見てるみたい」

「さすがにもういいわよ。ご馳走様」


 勢いよく冷たいものを飲んだためか、頭がキーン、となっているのだろう。

姉は眉間に皺を寄せ、その間を指で押さえている。

かき氷を一気に食べたときみたいだ。なんて思いながら、私は飴を煮詰めていた鍋とグラスを洗う。


「うわ、鍋、すごい飴がこびりついてるんだけど」

「やっぱりお砂糖煮詰めるとそうなるわよね」

「だめだ、これ取れないよ。おねえちゃん、これ火にかけたい」


 私の要望に姉が答える。

姉は、水をなみなみと入れた鍋をコンロに置く。

火をつけて、沸くまでの間、しばらく休憩しようと椅子に座る。


「モモ薬糖は、持ち運びは楽そうだけど、片付けは大変ね」

「そうだね。毎日作ってるとしんどいと思う」


 のんびりとそんなことを話していれば、ゴボゴボ泡が生まれては弾ける音。

沸騰した音が響き、慌てて火を止める。


「よかった、飴取れてる」


 シンクに湯を捨て、残った飴がないか確認する。

残っていない。

そのまま食洗器に並べて入れた。


「出前、遅いね」

「まだ作っているんだわ。のんびり待ちましょう」


 片付けまで終わって、ほっと力が抜けた瞬間、途端に強く感じるのは空腹。

今にも鳴り出しそうな腹を抑え、気が紛れるものが何かないかと目で探す。


「恵美。今のうちに証明書の発行について、確認しておいたら?」

「そうだね。そうする」


 姉からの提案は助け船に見えた。


 通知書に書かれていることを一通り流し読む。

証明書の発行についてのこと、それから私におすすめの講義等。

その中でも特段目を惹いたのは、おすすめクラブの欄。


 『盗賊シーフ協会所属 パルクールクラブ』。


「パル、クール?」


 見慣れない単語に、私は首を傾げたのだった。







―――――――――――――――――――――――――――――

第二章『試験とモモ級回復ポーション』これにて完結です。

次回第三章

「宿敵現る初ダンジョン?」

次回もまた、よろしくお願いします!


※次は4月27日から更新再開予定です

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