試験とモモ級回復ポーション 19

「さすがにそれは……」

「ウチら、しないしぃ」


 陽夏と二人、姉にあらぬ心配をかけていることに膨れる。


「確かに今までのポーションはまずいし、できれば飲みたくないけど。でも、このポーションが無かったら飲むよ。死にたくないもん」


 あら、そう? なんて、姉は悪戯っぽく笑う。


「ふふ、信じていないわけじゃないのよ。でも、できればふたりには、できるだけ安全に行ってきてほしいの。だから、懸念事項は取り除いておきたいのね」


 姉はメモ帳に『モモ』と大きく書いて、モモ級回復ポーションをしまっている箱に貼る。

ひとまずこれで、家の中であればうっかり間違えることも無くなりそうだ。


「……まあ、発明者はカナタさんだし。カナタさんの好きにすればいいと思う」

「そう、だね。うん、おねえちゃんに権利があるんだもんね」

「恵美、陽夏ちゃん。ありがとうね」


 姉はモモ級回復ポーションを一通り整理し終わると、モモ薬湯の原液が入ったまま、そのままにしてある鍋のもとへ向かう。

外を見れば、いつの間にやら真っ暗闇になっている。


「どうしよう、だいぶ集中してたみたい」

「うわ、ほんとだ。暗」

「あら、どうしましょう。陽夏ちゃん、お父さんかお母さんに電話した?」

「いけね。してないや」


 陽夏は舌を出し、携帯を取り出す。


「ちょっち待っててー」


 そう言いながら、家の裏口を開け、外に出る。

閉められた扉の向こうで話す会話の、内容は聞こえてこない。


「やっちゃった。おねえちゃん、どうしよう」


 姉は無言で首を振る。


「どうしようもないわ。あとで、ちゃんと謝りましょう」

「はぁい……」


 私は項垂れ、陽夏の結果を待つ。

しばらく待っていると、通話が終わったのか、裏口から陽夏が戻ってきた。


「すこーし怒られちった」

「やっぱり。陽夏、ごめんね」

「いやいや、気付かなかったウチも悪いし。そもそも怒られたってのも、夕飯どうするかの連絡がなかったことに対してだから!」


 気を遣って言ってくれているのか、それとも本当のことか。

私には分からなかった。


「ごめんなさいね。わたしも気が付けばよかったわ」

「いや、本当に遅くなったことに対しては気にしてないみたいだったから」

「そう言ってもらえて嬉しいわ。もう遅いし、恵美、送ってってあげて」

「はーい」


 非常用に常備してある懐中電灯を手に取る。

陽夏は今日使ったリュックの中身を確認している。


「お待たせ、こっちは大丈夫」

「こっちはまだー。もうちょっと待って」


 リュックの中身を再度確認している陽夏は、不審そうに首を傾げている。


「あれ? っかしーなー」

「陽夏、どうしたの?」

「合格の通知書、どこやったっけ」


 陽夏と一緒になって探す。

なかなか見つからなくて、少し焦った頃。

灯台下暗しと言うべきか、陽夏が使っていた椅子の上に置かれているのを見つけた。


「陽夏、あったよ」

「マジ? あんがと、どこにあったん?」

「陽夏が座ってた椅子の上」

「マジなんでそこに置いたん、ウチ……」


 陽夏は幾分ほっとした顔で、通知書の中身を確認する。

うっかり間違えたとしても、家は近いからすぐに交換しに行けるだろうに。


「そういえば、陽夏、但し書きあったって言ってたけど」

「言ったね」

「なんて書いてあったの?」


 もう一度、陽夏は通知書の中身を見る。


「魔法使い協会で、魔力コントロール講座を受けて、講義内の試験に合格すればダンジョン入りを認めるってさ」


 陽夏は心底イヤそうに、うぇ、と顔を顰める。

私もつられて、眉を顰めてしまう。


「心中お察しします」

「まったくだよ」


 ため息を吐いた陽夏は携帯を開き、その場で魔法使い協会にアクセスをする。


「必要なもんは探索者証明書。それから、自分の武器があればそれも、か」

「探索者証明書の発行、もう一回探索者協会に行かないといけないのかな」

「んー……。いや、そうでもないっぽい」

「え? インターネット手続きで郵送とか?」

「そうじゃなくて、ジョブのこういう講義を一回でも受ければ、その場支払いで証明書を発行してくれるみたいよ」


 ただし合格通知書を持って行かないといけない、なんて注意点はあるらしいが。


「へぇ、そうだったんだ」

「メグのやつにも同じこと書いてるはずだけどー?」


 じとーっと胡乱な目を向けられる。

誤魔化すように頬を掻き、そっぽを向く。


「まだ見てなくて……」


 ごめんなさい。

私は素直に謝った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る