試験とモモ級回復ポーション 10

 へのへのもへじのカカーシが一体。

このカカーシは、どんな攻撃手段を使うのか。

一回の戦闘が終わるたびにシャッフルされたカカーシは、最早どれがどれだか分からなくなっていた。


「……Go!」


 サイモンさんの合図が飛ぶ。

私は一気に距離を詰める。


「……!」


 私から距離を取ろうと、カカーシは飛び退る。

この時点で、中距離か遠距離のカカーシであると目星を付ける。


(でも、このまま離れさせるわけにはいかない!)


 離れたらこいつはきっと攻撃をしてくるだろう。

そうさせないために、私の土俵で戦ってもらう。


 つまり、うんと距離を詰める。

私の脚は、さらに加速した。


(もらった!)


 カカーシの懐に入り込む。

上目遣いに見上げれば、なんとも言えないへのへのもへじが、若干焦っているようにも見えた。


「せぃっ!」


 下から持ち上げるようにダガーで切り上げる。

しかし、カカーシが寸前で後ろに倒れるように身を引く。

狙いが狂い、ダガーの刃はカカーシの服を切り裂くだけに留まった。


「あっ」


 服を切り裂かれたカカーシは、うんと勢いをつけて、私を飛び越して跳んだ。

後ろに振り返る、その動作がカカーシに余裕を与えてしまう。


「わ、わっ、ととっ」


 カカーシから飛んでくるのは弓矢に見立てた水鉄砲。

刺さって怪我をすることは無いが、それなりに威力のある水鉄砲は、当たれば後ろに押し返されたり、体勢を崩されたりすること請け合い。

私の前に戦っていた受験者の中には、それが元で体勢を崩し、膝をついてしまった子もいた。


(でも、これで分かった。あのカカーシは中距離攻撃のカカーシ。うんと遠くに逃げ出すこともないから、距離を詰めやすい)


 水鉄砲の軌道を読む。

あれがどこに飛んでくるのか、どこから飛んでくるのか。私の目は、それをはっきりと捉える。

 軌道を読み、それを避ける。

しゃがんだり、飛んだり、走ったり。


 ああ、なんだろう。

なんだか、身体がとても軽い。


 まるで鳥になったかのような錯覚を覚える。

そのくらい、身体がうんと身軽に動く。

これがサイモンさんの言っていた、身体が使い方を知っているってことなのだろうか。


 目の前に迫る水鉄砲。避け続けていた中の、最後の一本。

私はそれを、ダガーで切り落とす。

ダガーは水を裂き、水鉄砲は水滴となってダガーの刃に纏わりつく。


「……っ!」


 水滴を飛び散らせ、一直線にダガーを振り下ろす。

それは狙い通り、寸分違わず刺さってくれる。

勢いが付きすぎたのか、そのままカカーシ諸共地面へと倒れる。

ゴキッ。

そんな鈍い音が、手を伝って響く。


「……ふぅっ」


 カカーシが完全に動かなくなっていることを確認する。

それを確認して、ようやくダガーをカカーシから引き抜く。

倒れた瞬間に、真っ二つに折れてしまった、カカーシの首から。


「……十番、合格だ」


 ありがとうございますという前に、私は。


「大変申し訳ありませんでした」


 土下座した。


「Oh、DOGEZA! ……いったい何に謝っているんだ?」

「カカーシの首を、折ってしまい……」

「ああ、そんなこと気にしなくていい」

「え?」


 渾身の謝罪を気にしなくていいというサイモンさん。

まだ、他に受験者がいるというのに、随分あっさりしている。


「ほら、カカーシ三号。立て」


 そう言いながらサイモンさんがカカーシを抱き起こす。

すると、あらぬ方向へと曲がっていたカカーシの首は、ぼきっ、という音と共に、正常な位置へと戻っていく。

まるでそれは、外れた肩関節を戻すかのような御業。


「壊れてもまた正常に戻る、回復機能付きの自動人形だ。オレの妻はすごいだろう?」


 カカーシはサイモンさんの奥さん製作らしい。

何気にまた惚気られた気がするが、いつまでもいられないため、元の場所に戻る。


「次、十一番」

「おーし、行ってくるぜぃ」


 戻る私と入れ違いに陽夏が中央へ向かう。

すれ違いざまにそう、挨拶のように言ってくれるから、私も彼女に頑張れ、とだけ声をかける。


「いっちょやったるか」


 陽夏の手には、まだ何の色も付いていない、ハマドライアドの杖が握られていた。

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