虚弱な生産士は今日も死ぬ ─小さな望みは世界を救いました─

開始前

　ガタンゴトン　ガタンゴトン

「Ｅｖｅｒｙ　Ｈｏｌｉｄａｙ　Ｏｎｌｉｎｅ？　なんだそれ」

「なんだ、知らないのかよ。結構ＣＭもやってるじゃねぇか。ＥＨＯってな」

「……ああ、そういえば翔がいっしょにやろうと言ってたな」

「おいおい、せめて子供が知ってることぐらい知っておこうぜ。元ゲーマーの名が草葉の陰で泣いてるぞ」

　仕事終わりの電車の中で、会社の同僚である『新木（あらき）拓真（たくま）』がそう言ってくる。

「のんびりスローライフや白熱バトル、商談や政治まで何でもござれ。まるで祝日のように、いろいろなことをするための時間が用意された電脳世界──それがそのゲームだ」

　……後半の二つ、言う必要があったのか？

　何だか世知辛い世の中みたいじゃないか。

「ま、とにかく俺もやってみたいとは思ってるんだ。一緒にどうだ──做（つくる）？」

「……でもお高いんでしょ？」

「ああ、本体とセットでだいたい云（■）十万だ」

　うん、そりゃあ無理だな。

　翔と舞の分──二台分なら今までの貯蓄で何とかなるんだが……俺の分は、無いな。

　そして、二人がやってたら絶対に瑠璃もやりたいと言い出すし……どうするかな。

「そうだなー、とりあえず有り金叩いて子供の分は買っておくから、お前の方で子供たちにいろいろと手を貸してやってくれ」

「ちぇ～、せっかくお前と久しぶりにゲームできると思ったのに……まっ、二人ともやりたいと思ってたから良いんだけどな」

「……舞はやらんぞ」

「俺にロリコンの気はねぇよ」

　　◆　　　□　　　◆　　　□　　　◆

　いくつかの店を巡った後、本体とＥＨＯを購入することにどうにか成功した……まあ、昔の伝手ってのは大切だと思ったよ。

　正式サービス開始日の前日に届けてくれるサービス付きだったから、子供たちもサプライズに喜んでくれるだろう。

「ただいま～」

「あらあら、いつもより遅いお帰りよ。何かあったの？」

　帰宅した俺を迎え入れてくれたのは、妻である瑠璃だ。

　十代と疑われることがあるぐらいに容姿は若く、二人の子持ちと告げた暁には周りの女性がムンクのように叫んでいた。

　そんな可愛らしい最愛の妻は、俺が遅くに帰宅しても怒らず、ただただ心配そうに聞いてくる……まあ、いつもは定時で直帰だからそう聞かれて当然か。

「……実はＥＨＯを二人のために探していてな、少し探し回ってたんだ」

「──え゛っ？　え、ＥＨＯを！？」

　あっ、やっぱり通じたか。

　俺と瑠璃はネトゲのオフ会が切っ掛けで結婚した夫婦なので、ゲームのことはだいたい把握しているのだ（俺は最近の仕事のせいで気づけなかったが）。

「で、でも、翔たちは……」

「良いんだよ、今までに溜めてた俺の貯金を使っただけだから」

「そ、そういうことじゃなくて、もう──」

「う～ん、今日も疲れたなぁ。瑠璃、本当に悪いと思うんだが、先にお風呂に入らせてもらえないか？　ちょっと、いろんな所に脚を伸ばしたから疲れててな」

「（まあ良いわ。そっちの方が都合も良さそうだし……何より面白そう♪）。ええ、すぐ追い炊きを押してくるから、先に脱いで待っててね」

「ん？　そ、そうだな」

　この後、ゆっくりと風呂に浸かった俺は、夜食を食べることもなく、瑠璃と一緒に寝室でぐっすりと眠った。

　──二人共、喜んでくれるよな。