第42話 鳥になった友人のビデオ【閲覧注意・自己責任系】
これは私が大学生の頃に、バイト先の先輩から聞いた話です。
その話を先輩を仮にAさんと呼びます。
Aさんは居酒屋で友人Bさんと酒を飲んでいる時、そのBさんからこんな話を聞きました。
ある専門学校にかよっていた女性が夜遅くに帰宅しました。彼女の住んでいるアパートは1LDKです。こじんまりとした部屋で、和室とキッチンが
玄関を開けると、すぐに異変に気づきました。
襖がすこし開いているのです。出かける前にきっちり閉めたはずなのに。
なんだか気持ち悪くなり、彼女は急いで襖を閉めようとしました。そのとき隙間から億の部屋の様子が見えました。
部屋のすみに置いてある液晶テレビに何かが映っています。
知らない男の顔が映っています。真っ黒な背景に男の顔が大きく映っています。
男はニタッと笑いながら、両目を糸のように細めて宙を見ていました。
彼女が「あっ」と驚くと、画面の中の男の目が動きました。
彼女と目が合いました。
恐ろしくなった彼女は、あわててテレビの電源コードを抜きます。しかし男の映像は消えません。
彼女が混乱していると、画面の映像が引いて、男の顔から、男の全体像を映し出しました。
「ひいっ!」
彼女は思わず悲鳴をあげます。
男の体はまるで大型トラックの車輪に引き込まれたかのようにグチャグチャだったからです。男は前のめりの体勢で立っています。そして両腕をバンザイしているかのように上に向けて広げています。両腕は皮膚がべろんとめくれて垂れ下がっており、それがまるで鳥の翼のようです。
しかも男の足は損傷がひどくて、逆に折れ曲がってました。
それがまるで鳥の足のように見えました。
そこで彼女はハッとしました。
この男をどこかで見た、あるいは聞いたことがある。
思い出せない。でも思い出さないといけない。
なんだか恐怖がこみ上げてきます。嫌な汗がながれます。
男は画面のなかで、グチャグチャになった己の体をさらしながら、顔だけはこっちを向いています。目を細めて笑っています。笑いながら、彼女を見つめています。
それから数日後、彼女は死にました。彼女の友人が死体を発見したそうです。
これでBさんの話は終わりです。
Aさんは「なぜ彼女は死んじゃったのか?」とたずねました。
しかしBさんは首を横に振り「俺もここまでしか聞いてない。よく分からないんだよ。でもそこが怖いよな」と返しました。
Aさんはなぜかこの話が妙に気になりました。忘れようにも忘れられない。あの映像を見たあと、彼女はどうなったのか気になって仕方ありません。
精神を病んで自殺したのか? テレビの中から男が現れて殺されたのか? それとも? 事件の当事者が死んでいるのになぜこの話が伝わっているのかも謎です。
友人のBさんもそこが気になっている様でした。
それからというものAさんとBさんは暇があれば、この怪談話について熱い議論を交わしていました。なぜ話の中の女は死んだのか、テレビに映っていた男は何者なのか、なぜ男はグチャグチャの姿なのか、あれこれ想像をふくらませながら。
それから数日が経って。
Bさんは死亡しました。
真夜中に標高の高い山に登って、断崖から飛び降りたそうです。その死体は損傷がひどかくて、首から下はグチャグチャでした。
バイトの先輩Aさんは真剣に悩んでいます。後悔しています。
今度はAさんのテレビに男の顔が映ってしまったから。
電源コードを抜いても消えません。男の顔には見覚えがあります。友人のBさんでした。
真っ暗な画面の中で、Bさんは両目を糸のように細めて笑っています。満面の笑みでAさんを見つめています。Aさんは目をそらすことができません。画面に釘付けです。すると映像が引いていきます。Bさんの顔から、Bさんの全体像が映し出されます。Aさんは絶句します。あの怪談話とそっくりの姿です。
激しく体を岩にぶつけてグチャグチャになっている。首が折れているせいで前のめりの姿勢。両腕をバンザイしているように広げています。腕の皮膚がめくれて鳥の翼のようです。両脚も逆方向に折れ曲がっています。まるで鳥の足のようです。
Bさんは笑みを浮かべながらじっとAさんを見ています。
私はこの話を居酒屋で酒を飲みかわしながら聞きました。
Aさんは言います。もしかしたらこの話は伝染するのかもしれない。だとしたら次に飛び降りて死ぬのは俺だと。
そしてその次に死ぬのは、私かあなたです。
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