第45話 廃屋の天井

 

 これは私が小さい頃に伯父が話してくれた実話です。


 伯父にはバイク好きの友人がいた。

 その友人を仮にBさんと呼ぶ。


 週末になると二人でバイクに乗って峠道を爆走していた。


 ある年のゴールデンウィークの初日。

 二人はさっそくバイクで県外の峠道へむかった。

 だが山の天気は変わりやすい。

 あんのじょう、雷をともなう激しい雨が降り出した。

 伯父はこのままバイクを走らせるのは危険だと思った。

 雨宿りできる場所を探そうと提案する。


 そこは深い山の奥。むろん宿なんか無い。


 雷雨のなか、必死にバイクを走らせる。

 せめてコンビニでもあれば、と願っていた。


 すると森の中に一軒の家を見つけた。


 庭は雑草が伸び放題。屋根も壁も崩れているありさま。

 完全な廃墟だった。


「ちょうどいい。ここで雨宿りしよう」


 Bさんがそう言った。

 しぶしぶ伯父も従った。


 二人は雑草をけて進んだ。庭の大きな木の下にバイクを止めた。


 時刻は午後9時過ぎ。あたりは真っ暗。雨は激しさを増す。


 二人は各々おのおの持っていたライターの火を頼りに廃屋の玄関を見つけた。

 玄関の引き戸は錆びており動かない。

 だがさいわいにも半開きだった。隙間から中に入った。


 中はかび臭い。

 廊下は土埃つちぼこりでひどく汚れていた。

 廊下の奥は天井が崩壊している。


 かろうじて入れる部屋が一つだけあった。


 そこは小さな和室だった。


 入ると変な臭いがした。


 ライターの火で部屋の中を照らす。

 その瞬間、ふたりとも「うおっ!」と変な声をあげた。


 ボロボロになった畳の上には、猫の死骸がたくさんあった。

 まるで猫の墓場だったという。


 背筋がゾクッとする異様な光景だ。

 それだけじゃない。

 その部屋にいると妙な視線を感じる。


 さりげなくBさんがライターで天井を照らした。


「おい、上を見ろ」


 そう言われて、伯父もライターの火を天井にむける。

 薄暗い天井を見て、二人とも息を呑んだ。


 天井は雨漏あまもりのせいで無数の染みができている。


 その全ての染みが、口を大きく開けた猫の顔をしていたという。

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