第46話 残酷な動物実験『生きるのをやめた理由』


 いまから70年ほど前のこと。

 1950年代の話である。


 当時、米国のハーバード大学にいたカート・リヒター(Curt Richer)教授は、ある動物実験をおこなった。


 その名もラットホープ(ネズミの希望)実験。

 世界で最も残酷な動物実験のひとつと言われている。


 実験の内容はこうである。


 横の長さ30センチ。縦の長さ60センチの大きなビンを2つ用意する。


 両方のビンに水をたっぷり入れる。


 つぎに2匹のネズミを用意する。

 1匹は自然の世界で強くたくましく生きてきたネズミ。

 もう1匹は人間に飼われていたネズミ。自分ではエサを取ることができないほど甘やかされてきたネズミだ。


 この2匹のネズミを、それぞれの水入りビンに入れる。


 ビンの中の水は深い。

 ゆえに常に泳いでいないと溺れて死んでしまう。

 むろんビンの外に逃げることはできない。


 どちらも溺れ死ぬまで実験をつづける。溺れ死ぬまでの時間を観測する。




 さて皆さんに質問です。


 自然の中で強く生きてきたネズミ。

 人に飼われて甘やかされてきたネズミ。


 この状況でどちらがより長く生き延びることができたでしょうか?



↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓



























 正解は「人に飼われて甘やかされてきたネズミ」です。






 なんと驚いたことに、自然の中でたくましく生きてきたネズミは、実験開始後15分ほどで泳ぐのをやめて溺死したそうだ。





 それとは反対に、人に飼われて甘やかされてきたネズミは、実験開始後60時間も泳ぎつづけた。2日と半日も眠らずに泳ぎつづけたことになる。


 なぜこうも違いが出たのか。

 当時は誰もその答えをだすことができなかった。


 しかし後にカート・リヒター(Curt Richer)教授はこう述べている。



「自然の中で生きてきたネズミは、自分の置かれた状況が絶望的であり助からない、ということをさとるのが早かったのではないか。だからあきらめて泳ぐのをやめてしまった。


 逆に人に飼われてきたネズミは自分の置かれた状況に絶望しなかった。きっと人間が助けてくれる。そういう希望があったから、60時間も泳ぎつづけることができた」



 この実験でつかわれた2匹のネズミの寿命の差。それは希望があるかどうか。


 これは人間も同じではないだろうか?



 昨今、テレビでは連日にわたり、南海トラフ地震の予報をしている。

 予想される南海トラフ地震の被害は甚大じんだいだ。予想される死亡者数も多い。


 絶望的な状況を目の当たりにして、みずから生きることを諦める人間は意外と多いらしい。


 もしも大地震が発生して、もしも自分が被災したら?


 そのとき生きるか死ぬかは、希望というもろい感情のさじ加減である。

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