第31話 森の中でsiriを使うと……
これはあるユーチューバーさんの話。
その人を仮にIくんと呼びます。
Iくんは売れないユーチューバーでした。動画の広告で稼ぎたいのですが、チャンネル登録数が300人前後。
大物ユーチューバーのように登録数10万人を越えたいと常日頃から思っていました。
とにかくバズって有名になりたいと。
花火の火薬を集めて火をつける。
コーラのペットボトルの中に大量のメントスを入れていっき飲みする。
……など低予算ながらもたくさんの実験検証動画をあげますが、うまくバズりません。
それでツイッターのフォロワーさんにたずねたところ、iPhoneの「Siri」とコントする動画はどうか? とアドバイスを受けました。
Iくんはそのとき「なるほど。これは面白そうだ」と意気込みました。
「Siri」とはiPhoneの音声読み上げや、さまざまな機能を手助けしてくれるアシスタントのことです。「Siri」には音声認識機能がついており、直接iPhoneに話しかければ、「Siri」が話した内容を理解して、アシストしたり、またユーモアたっぷりに返答してくれます。
Iくんはこの「Siri」と森の中で喧嘩する企画を思いつきました。
そして休日に車で富士の樹海に訪れると、ハイキングコースからそれたまったく人のいない森の中に入り、どんどん進んでいきました。
季節は初夏。
ひとりで来たので周囲には誰もいません。
ただ鳥の鳴き声がものすごく
IくんがiPhoneを取り出して「Siri」を起動します。さっそく悪口を言います。悪口の内容が音声呼び上げ機能により、画面に表示されます。
そしてIくんはカメラを回して動画撮影に入りました。
Iくん「ヘイ、Siri。君はなんでいつもそんなおかまっぽい声してるんだい?」
iPhoneの画面。
【君はなんでいつもそんなおかまっぽい声してるんだい】
siri「私の声はそう聞こえるかもしれませんが、私は人間の皆さんが考える性別の概念を越えた存在です」
Iくん「いま富士の樹海に来てるんだけど、鳥がうるさいね。撃ち落してもいい?」
iPhoneの画面。
【いま富士の樹海に来てるんだけど、鳥がうるさいね。撃ち落してもいい】
siri「面白い冗談ですね。私が妖精の粉をふりまいて鳥たちを歌わせてあげましょう」
Iくん「いま鳥がうるさく鳴いてるんだけど、このうるさい鳥の名前を教えて?」
iPhoneの画面。
【いま鳥がうるさく鳴いてるんだけど、このうるさい鳥の名前を教えて】
siri「私の知ってる範囲でならお答えできるかもしれません。もっとも私はニワトリの鳴き声しか知りませんが」
Iくんが頭上にむかってiPhoneをかかげる。森の音、鳥の鳴き声をiPhoneが音声認識。
iPhoneの画面。
【チュンチュンチュン。キーキュル、キー、クワ。クワクワ】
siri「早口言葉ですね。カエルぴょこぴょこ3ぴょこぴょこあわせてぴょこぴょこ6ぴょこぴょこ」
Iくん「ちげーよ。鳥の鳴き声だよ。鳴いてる鳥の種類をおしえて!」
そういってもういちどIくんが頭上にむかってiPhoneをかかげる。
森の音、鳥の鳴き声をiPhoneが音声認識。
iPhoneの画面。
【チュンチュンチュン。キーキュル、キー、クワ。クワクワ】
siri「早口言葉ですね。カエルぴょこぴょこ3ぴょこぴょこあわせてぴょこぴょこ6ぴょこぴょこ」
Iくん「やっぱりダメかな。これがiPhoneの音声認識機能の限界かな」
そういってIくんが笑う。
Iくんは再び頭上にむかってiPhoneをかかげる。
森の音、鳥の鳴き声をiPhoneが音声認識。
iPhoneの画面。
【チュンチュンチュン。キーキュル、キー、クワ。クワクワ】
siri「早口言葉ですね。カエルぴょこぴょこ3ぴょこぴょこあわせてぴょこぴょこ6ぴょこぴょこ」
Iくん「早口言葉でもいいけどさ、他の早口言葉を言えないの? iPhoneも情けないね」
そういってIくんは大笑いする。
またIくんが頭上にむかってiPhoneをかかげる。
頭の上では鳥たちが「チュンチュン、キーキー」と鳴いている。こんどはどんな悪口をいってやろうかと思案していたところ……。
森の音、鳥の鳴き声をiPhoneが音声認識。
内容が画面に表示される。
iPhoneの画面。
【Ж§%)Α)さんがやって来る】
siri「はい。そうですね。こっちにむかってやって来ます」
それは聞いてIくんが硬直した。
他には誰もいない深い森の中だ。自分以外に話す者などいない。
なのにiPhoneが鳥の鳴き声を聞いて、このように音声認識した。
Iくんは驚いて周囲をキョロキョロ見た。むろん誰もいない。
Iくんはドキッとした。偶然に鳥の声が言葉として認識されたのだろう。
そう思うことにしたが何か不気味だ。
たぶん偶然にも認識された言葉の内容もあいまって、不気味に感じた。
硬直したまま高くかかげていたiPhoneが「チュンチュン、キーキー」となく鳥の鳴き声を認識して、ふたたび画面に表示した。
iPhoneの画面。
【Ж§%)Α)さんがやって来る】
siri「はい。そうですね。どんどんこっちにやって来ます」
一度だけでなく二度までも。
何かがおかしい。いったいsiriは鳥の鳴き声の中から何を聞き取っているのだろう……。
暗い森のなかに独りぼっち。
Iくんは背中に嫌な汗をおぼえた。
そして再びsiriが読み上げる。
iPhoneの画面。
【Ж§%)Α)さんがやって来る】
siri「はい。そうですね。すぐ後ろにいます」
Iくんはそのsiriの謎の会話に戦々恐々としながら背後をふりかえった。
そのとたん、Iくんは絶叫して、転ぶ勢いで走り去っていった。
背後を振り返ったIくんが目にしたもの。
それはやたら細くて痩せた真っ黒い人影だった。
そいつはまるで全身の肉が溶けているかのように骨が露出していた。
そしてそいつの首は異様に長かった。
そいつの首には、首を吊る
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