第23話 不気味な動物実験『愛情の正体』


 とても奇妙な動物実験をひとつ紹介します。




 人間の性的嗜好せいてきしこうのひとつにアクロトモフィアがあります。

 いわゆる欠損萌えのことです。

 しかしもしかしたら人間以外の動物にも似たような性癖があるのかもしれません。



 いまから70年ほど前のこと。

 1950年、アメリカのペンシルバニア州大学にマーティン・シャインとエドガー・ヘイルという動物学者がいました。彼らは動物の性愛行動に非常に感心をしめしていました。

 そして彼らはある実験をおこないました。


 用意したのはオスの七面鳥が数匹と、とてもよく出来ているメスの七面鳥の模型。

 数匹のオスの七面鳥をそれぞれメスの七面鳥の模型がある個室にいれました。


 オスの七面鳥がメスの模型に性的にかれるか調べたのです。

 結果は、ぜんぶのオスがメスの模型に接近して求愛行動をとりました。



 おどろいたマーティンとエドガーですが、このときまた新しい疑問がわいてきました。

 オスの七面鳥はメスのどこに性的にかれるか実験したくなったのです。

 そして彼らはメスの七面鳥の模型の部位を、ノコギリで少しずつとしていきました。


 まずは両脚をノコギリで切断しました。

 両脚がなければさすがに興味を失うだろうと二人は考えました。


 しかしオスの七面鳥はすべて両脚の無いメスの模型に求愛行動をとりました。



 二人はおどろきました。

 まさかと思い、今度は両方の翼をノコギリで切断しました。

 翼がなければ同じ七面鳥とは認識できないと考えました。


 しかしオスの七面鳥はすべて両脚と翼が無いメスの模型に求愛行動をとりました。



 二人はまたおどろきました。

 そして今度は模型の胴体の半分を切断しました。

 両脚がない。両方の翼がない。さらには胴体が半分しかない。

 もしも自然界にこんなメスがいたら、それはもう死んでいます。

 さすがに興味をなくすだろうと二人は考えました。


 しかしオスの七面鳥はすべて胴体が半分しかないメスの模型に求愛行動をとりました。


 二人はまたしてもおどろきました。

 そして今度はメスの模型から胴体を完全に切り落として生首だけにしたのです。

 木の棒にメスの模型の生首をさして地面に固定しました。

 どうなるか二人は固唾かたずをのんで見守りました。


 オスの七面鳥はすべてメスの生首に求愛行動をとりました。



 もちろん二人がおどろいたことは言うまでもありません。



 これがオスの七面鳥すべてに言えることなのか。

 それともこの数匹だけの性的嗜好だったのか。


 彼らはいったいなぜ足の無い模型、胴体が半分だけの模型、首だけの模型を、同じ仲間のメスだと認識したのでしょうか……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る