第14話 牛女


『くだん』について。

 19世紀前半ごろから日本各地で囁かれるようになった妖怪。体は牛であるが頭は人面である。よってにんべんにうしで『件』と書く。

 うまれてすぐに予言をして死ぬ。


 人間の顔に牛の体を持つくだんが、天保7年(1836年)、丹波国与謝郡「倉橋山」(現・京都府宮津市の倉梯山)に出現したと触れまわる当時の瓦版が現存する。この件は、その先数年連続で豊作が続くと予言し、また、その絵図を張り置けば家内は繁盛し、厄も避けられると教示したという。

 また文政2年(1827年)以降の文献に越中国(現・富山県)立山で薬種の採掘者が遭遇したとする記述がある。


 明治42年(1909年)6月21日の『名古屋新聞』の記事によると、その10年前に五島列島の農家で、家畜の牛が人の顔を持つ子牛を産み、生後31日目に「日本はロシアと戦争をする」と予言をして死んだとある。この子牛は剥製にされて長崎県 長崎市の八尋博物館に陳列されたものの、現在では博物館はすでに閉館しており、剥製の行方も判明していない。その後も類似の『くだんの』はく製なるものが見世物小屋にでまわったという。



 牛女について。

 体が人間で頭が牛という妖怪。赤色もしくは黒色の着物をきている。くだんと同様に凶事の予兆とされる。

 とくに神戸市にまつわる怪談や都市伝説で、この牛女がよくあらわれる。



『六甲山の牛女』

 神戸市にすんでいる40代くらいの人ならば、この都市伝説を一度は聞いたことがあるだろう。夜、一人でバイクに乗って峠を走っていると牛女に遭遇するという噂だ。まれに牛の体に女の顔をした牛女があらわれる。この牛女は峠を走っているバイクを追いかけてきて、そのまま追い抜いてしまう。追い越されても特に何も起きない。ただそれだけである。

 走り屋たちの間では有名な都市伝説だ。


『西宮の牛女』

 兵庫県西宮市の話。

 1945年(昭和20年)の6月に神戸市大空襲があった。西宮市も激しく絨毯爆撃じゅうたんばくげきされた。その焼け野原に血まみれの牛女があらわれて、焼け死んだ家畜の内臓をむさぼり食っていたそうだ。目撃した人が多い。

 なんでもその西宮市には、大金持ちの畜産業者がいた。肉牛で商売繁盛したらしく、立派な屋敷をかまえていた。しかし殺された牛たちの怨念か、生まれてきた娘は頭が牛の異形であった。世間体を気にした父親により、その牛頭の娘は地下の座敷牢に閉じ込められていたそうだ。それが爆撃で屋敷が破壊され、外に逃げだしたのだろうといわれている。


『六甲山の麓のお寺に出没する牛女』

 兵庫県の六甲山の麓にある某寺。真夜中にこのお寺の本堂を外から3回まわると、牛女があらわれる。牛女が竹藪の中からのぞいている。それを見てしまうと追いかけてきて殺される。

 また本堂の近くの洞穴に龍神様をまつるほこらがある。夜中にそこにいくと、祠の影に潜んでいる牛女と目が合う。追いかけてきて、捕まると殺される。そのため夜になると人が入らないように、洞穴の入り口は鉄柵で閉じる。


『震災の時に出現した牛女』

 1995年1月に起きた阪神淡路大震災。そのとき瓦礫のうえで犬の死骸を食っている牛女を自衛隊員が何人か目撃したそうだ。

 また2011年に起きた東日本大震災のときも、宮城県気仙沼市で黒い喪服をきた牛女がおどっているのを自衛隊員が何人か目撃したという。

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