第12話 動物園の写真
東京に住んでいる女性Nさんの話。
Nさんは結婚して
テレビでパンダの特集をやっていたから、その影響もあるのだろう。
Nさんと旦那はゴールデンウィーク中にレンタカーで旅行する計画をたてた。
初日は旦那の好きな富士山登山、コテージで一泊したのち下山。そして東京にあるU野動物園でパンダを見ようということになった。
旅行の初日、娘はおおはしゃぎ。旦那もいつもより笑顔だ。Nさんもうきうきしていた。
富士山登山は天気にめぐまれて最高だった。Nさんはインスタントカメラでたくさん写真をとった。
予定通りその日はコテージに一泊。そこでもNさんは写真をいっぱいとった。
次の日に下山。
レンタカーにのって東京のU野動物園をめざす。
さすがにゴールデンウィークということもあって、U野動物園はたくさんの子連れ客でにぎわっていた。
「娘が迷子にならないよう手をつないでいこう」
旦那と娘が手をつなぎながら動物をみてまわる。
そのあいだもNさんは写真をとるのに夢中になっていた。
そしてパンダの前にやってきた。
娘はうれしそうだ。はしゃいでいる。旦那も子供みたいにはしゃいでいた。
そんな微笑ましい光景をNさんは写真にとった。
すると旦那がこう言った。
「せっかくだから記念に家族みんなで撮らないか?」
「なるほどね」
そこでNさんと旦那は動物園の係員をさがした。カメラを渡してシャッターを押してもらうために。しかし係員はいなかった。
しかたないので通行人にカメラのシャッターを押してもらうことにした。
そこにカジュアルな服を着た感じの良さそうなおじさんが歩いてきた。
Nさんはその人にお願いしてカメラをシャッターを押してもらうことにした。
そのおじさんは
Nさんたちは広場の大きな木のしたで記念写真をとった。
その帰り道。
娘はつかれて車内で眠ってしまった。
Nさんと旦那も、旅行の思い出をかたりながら家に帰っていった。
それから一週間後。
旦那は交通事故で首の骨を折り入院。命に別状はないが、ひどい大けがだ。Nさん自身にも不幸がおとずれた。棚から急に物が落ちてきたりして、首を怪我することがなんどもあった。
そしてもっと恐ろしいことがおきた。
娘がロープでやたら自分の首をしめようとする。あるときは公園の木の枝にロープを吊り下げて首を吊ろうとした。娘の友達があわててNさんを呼びにきて、ことなきを得た。
なぜ家族にこんな不幸がつづくのか分からない。
でもそのときNさんはインスタントカメラのことを思い出した。そろそろフィルムの現像が終わっているころだ。取りに行こう。そして幸せな写真をみて、不幸なことを忘れようとおもった。
カメラ屋さんにいって写真をもらうとき、店員が嫌な顔をした。なぜか写真を渡すのをしぶっている。それでも大事な家族写真だからとNさんは強引に写真を手に入れた。
その写真をみてNさんはおどろいた。
ほとんどの写真にあのおじさんがうつっていた。
動物園でカメラのシャッターを押してもらった、あの感じの良いおじさんだ。
そのおじさんと出会ったのは動物園いたときのほんの数分だけなのに。ほとんどの写真にそのおじさんがうつっていた。
ほとんどの写真のなかで、そのおじさんは背景の木の枝に首を吊るしていた。
おじさんの首は伸びきっていまにもちぎれそうだ。そしておじさんの舌は口から飛び出してへその辺りまでだらりと伸びていた。
白くにごった瞳でNさんの家族をジッと見ていた。
Nさんは怖くなってその写真をすぐに燃やした。
その次の日。地震で窓ガラスが割れて、破片がNさんの首に刺さった。あわてて救急車をよんだ。
娘はいまでも目を離すとロープで首を吊ろうとする。
いったい私たち家族が何をしたというのか。
なぜこんなひどい目にあわないといけないのか。
そもそもあの男は何者なのか。
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