第11話 ふたりぼっち 【閲覧注意】
この話を読むとあなたのところにも同じ怪異がやってくるかもしれません。
ここから先は自己責任でお願いします。ちょっと長いです。
養鶏所で働く新人Aさんに現在もつづている話。
養鶏所のなかには食鳥処理場というところがある。いわゆる鶏をしめて食品にする過程の場だ。
Aさんと仲の良い先輩Bさんはもう10年もこの食鳥処理場で働いてる。Bさんは仕事に不満をいわず黙々とこなす。それに陽気で明るい。だれにでも親しく接してくれる。Aさんはそんな先輩Bさんを尊敬していた。
逆にAさんは養鶏所で鶏にえさをやったり、糞の始末をする仕事だ。
ニワトリをしめるところを見ないので精神的に楽だった。
その日もAさんが働いていると養鶏所の経営者がやってきた。
Aさんにこんなことをたのんだ。
「すまないが今日は君とBが最後まで残って戸締りと見回りをしてくれないか。特別手当てをだすから」
べつに帰っても用事はない。それにお金がもらえるなら嬉しいとおもった。
Aさんはこころよく
この工場は一階が事務室と養鶏所、二階が食鳥処理場、三階が精肉工場になっている。
一階の事務室と養鶏所をみまわり、鍵をがちゃんとかかっているのを確認した。
それから二階はAさんがみまわりして鍵をしめる。Bさんは三階をみまわりして鍵をしめることにした。
Aさんは二階の食鳥処理場をまわった。鍵がちゃんとしまっているのを確認した。
エレベーターに乗って一階にもどる。
「これで特別手当てがでるなら最高だ」
こんな簡単な仕事で追加報酬がもらえる。Aさんはよろこんだ。
事務所の自動販売機で缶コーヒーを買い、飲みながらBさんの帰りを待った。
しかしいつまでたってもBさんがもどってこない。おかしいと思い始めたときAさんの携帯電話が鳴った。もしかしてBさんからの電話か?
そうおもったが電話の相手は経営者だった。
「戸締りはだいじょうぶか? さっきからBの携帯に電話してるんだが出てこない。Bはそこにいるか?」
Bさんが電話にでないから心配してかけたようだ。
Bさんは三階の戸締りをしている。きっと電話に気が付いていないのだろう。そうつたえた。それから電話をきってAさんも三階にむかった。
エレベーターのボタンを押す。エレベーターは三階でとまっている。エレベーターがゆっくりおりてくる。扉がひらいた。そのときAさんはぎょっとして悲鳴をあげた。
エレベーターの内側の壁には血の付いた手形がいっぱい付いている。さっきはなかったのに。きっとBさんになにかあったんだ。そう思ってAさんは階段で三階までかけのぼった。
「Bさん、そこにいるんですか?」
呼びかけるが返事はない。しかし鍵はきっちり閉められている。くまなく探したがBさんは見つからなかった。
Aさんは経営者に電話してそのことを伝えた。
「わかった。あとは俺が探すからお前はもう帰っていいぞ」
経営者がきた。エレベーターの扉をあける。内側の壁にこびりついていた血はきれいになくなっていた。
Aさんはおどろいた。
あれは幻覚だったのか? 疲れていたからありもしない物を見てしまったのか?
なんだかもんもんとした気分で、Aさんは家に帰った。
次の日の朝、Bさんの死体がみつかった。
エレベーターの天井裏で倒れていたらしい。死体の状況からみて無理にエレベーターのドアをこじあけて、そこから下にあるエレベーターにむかって飛び降りたようだ。
あのみまわりの夜。Aさんは二階のみまわりを終えてエレベーターで一階におりた。一階の事務所でコーヒーをのんでいた。そのあいだに飛び降りたようだ。
でもあんなに陽気なBさんがなぜ自殺したのか。理由がわからない。
葬式のときAさんはBさんの父親と話すことができた。
Bさんの父親はこんなことを教えてくれた。
「Bはいつも夜に変な女につきまとわれると言っていた。そして君とBが夜のみまわりをしていたあのとき、Bが私の携帯に電話をかけてきた。Bはひどく怯えた様子だった。工場の三階にだれかいる。いつも俺を追いかけてくるあの女だ。エレベーターの中に逃げたんだが外から扉をこじあけて、あの女が中に入ってきた。でもそのときエレベーターが下に降り始めて、女はエレベーターの天井にはさまり、ゴキゴキと変な音を立てながら折れ曲がり、中に落ちてきた。エレベーターのなかは血まみれになった。Bは一階まで降りて来たが、錯乱してまた階段で三階までのぼった。それから半開きになっているエレベーターのドアから下に飛び降りた。そこまでのBの話と、落ちる音が携帯越しに聞こえてきた。そのことを警察に話して、やっとBの死体がエレベーターの天井裏からみつかった」
そういうことか。
Bさんは変な女につきまとわれていたから、恐怖をぬぐうためにわざとテンションをあげて陽気にふるまっていたんだ。
もしかして経営者もそのことを知っていたのではないか。あの女の霊を知っていたのではないか。すくなくともBさんの異変についてなにか知っていたのではないか。だから終業時の戸締りに特別手当をだすと言ったのではないか。
後悔した。
Bさんの父親から、こんな話を聞くんじゃなかった。
それからAさんのまわりでも、あの女の霊があらわれるようになった。
全身が血まみれで腕や足が変な方向に折れ曲がっている女だ。一人でエレベーターに乗っているとき、一人で部屋にいるとき、風呂で髪を洗っているとき、あの女が見ている。物陰から、扉のすきまから、窓の外から。
あの女の霊はなんだろうか?
もしかしたら、殺された鶏たちの怨念があの女をつくりだしたのかもしれない。
それが怖くてAさんは無理にテンションをあげて陽気にふるまうことにした。あのときのBさんのように。
だっていつもどこかであの血まみれの女がのぞいているから。
そして昨日の夜。
エレベーターに一人で乗っているとあの女がドアをこじあけて入ってきた。あの血まみれの女が、腕や胴体をぐにゃぐにゃに折り曲げながら。
エレベーターの中であの女とふたりっきりになった。
べつにAさんになにかをしてくるわけではない。
ただじっと顔をのぞいてくる。でもいつか自分もBさんのように……。
そこでAさんは考えた。
どうすればあの血まみれの女から逃げられるか。
ネットにこの話をばらまいて、大勢の人があの女を知ればいい。あの女は知った者のところに現れる。
そうすれば自分を追いかけてこなくなる。他の知らない誰かを追いかけていく。
そうおもってAさんはこの話をネットに公開した。
そして。
Aさんのために私はこの話を載せています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます