第9話 四本足


 これは1970年にある肉屋さんで実際にあった話。


 デパートができるほんの少し前。

 1970年頃はまだ商店街に活気があふれていた。

 主婦は魚が欲しければ魚屋さん、野菜が欲しければ八百屋さんというふうに、近所の商店街をねり歩いた。


 ちょうどそのころ東京のある町にたいそう評判の肉屋さんがあった。


 その肉屋さんが作るフライドチキンはとてもおいしくて、なんと一日に100本も売れるほどだった。この店のフライドチキンを食べたお客さん達はみんな口をそろえて格別にうまいと言う。


 この肉屋さんの近くには1人のホームレスが住んでいた。

 ホームレスはいつもひまで、この肉屋さんが仕入れから調理、販売、そして夜遅くにゴミを捨てる様子を毎日ずっとながめていた。


 毎朝5時になると仕入れのトラックがやってくる。

 肉屋の主人はトラックの運転手から小さな木箱を受け取る。木箱はガサガサと動いている。きっと箱の中のニワトリが元気に動いているのだろう。


「あれ?」


 そのときはじめてホームレスはおかしいと気づいた。

 この肉屋では毎日100本のフライドチキンを売っている。むろん材料はニワトリの足だ。なら最低でもニワトリが50羽は必要なはず。

 しかしその箱はあまりにも小さかった。

 あれではニワトリが20匹くらいしか入らないではないか。


「それじゃ、残り80羽分のフライドチキンの材料はどこから仕入れてるんだ?」


 どうにも気になる。

 それでホームレスはこっそりと肉屋の中に侵入した。

 物陰に隠れて調理場をのぞく。

 ちょうど肉屋の主人がフライドチキンを作るところだ。

 箱から取り出された「もの」を見て、ホームレスはおもわず叫びそうになった。


 肉屋がさばいていたのは大きなカエルだった。ウシガエルだ。

 足の数をみると、1本、2本、3本、4本、5本。どういうわけかそのカエルには足が5本ある。


「前足が2本。太い後ろ足が3本。なんだこれは?」


 後ろ足の付け根から3本目の足がはえている。肉屋は慣れた手つきで後ろ足3本をさばいた。小麦粉をまぶし油の入った鍋にいれて調理する。


 木箱に入っているカエルはすべて後ろ足が3本か4本あった。

 どうみても普通のカエルではない。

 そのとき肉屋の主人が独言ひとりごとをもらした。


「東南アジアから輸入される奇形のカエルはすごいな。味がニワトリにそっくりだ。こうやってさばいてフライドチキンにしちゃえば絶対に気づかれない。みんなおいしいと言って買ってくれる……」

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