従者も優秀である

 今日はザファル様の従者がこの部屋に来る予定だ。服はザファル様が決めてくれた白いドレスを着ている。何も気にしてなかったけど、割と女装させられている気がする。いや、前世でもスカートみたいな服着てる男子いたし、ここではドレスは男女関係ないファッションなのかもしれない。ザファル様が選んだ服に文句は言えないし。


 緊張で気持ちがざわざわとし、ベッドでゴロゴロと暴れていたら部屋の扉が開いてしまった。こんなだらしない姿をザファル様と従者の人に見られたことが恥ずかしく、あわあわとしていると、ザファル様が頭を抱えしゃがみ込む。そんなに失態だったのだろうか。


 どうしようかと泣きそうになっていると、ザファル様の隣にいたザファル様のと同じ年くらいの男の子が近づいてきた。きっと彼が従者なのだろう。黒髪を一つのお団子にして高い位置でまとめているのに、まだ余裕がある長い髪だ。それに赤い切れ長の目が彼の美しさを際立てている。かなりの美人さんだ。何といえば伝わるのだろうか…将来人妻と呼ばれそうな美人さんかな。彼は僕と視線と合わせて自己紹介をしてくれた。


「俺の名前はハキーム・ロアール。今日からアレの正式な従者となる者だ。」

 アレと言ったときに、ザファル様をちらっと見ていたのは見なかったことにしよう。僕も自己紹介をしようと口を開いた時、ハキーム様は僕の肩を掴んで真剣な表情で聞いてきた。


「ザファルに何もされていないよな?というかその服装は何だ。まさかザファルの贈り物か?」

 その他にも答える暇もないまま、つらつらとたくさん質問されてしまい、あまりの恐怖に泣いてしまった。美人が真剣な顔で質問責めしてくるのがとても怖い。知らない人だし、僕はまだ自己紹介してないし。僕の話も聞いてほしい。そんな風に思って泣いてしまうと、ハキーム様は慌てていた。僕が急に泣いたことに驚いたみたいだ。


「ハキーム。シュエを追い詰めるな。まだ言葉を覚えたばかりなんだ。しかも、お前のその真剣な顔は昔から怖いぞ!」

 あははっ、と笑うザファル様。ザファル様は、僕とハキーム様の間に割り込んで僕を抱き抱えた。怖かったなと声をかけて、僕を落ち着かせるように背を撫でる。ザファル様の優しさにはいつも救われている気がする。


 はっと周りを見ると、宝石が散らばっていた。きっと緊張や恐怖、安堵など感情が動いたせいで、無意識に作ってしまったのだろう。宝石の妖精は希少なので、周りに知られないように制御出来るようにとザファル様に言われているのに、僕は感情の揺れで宝石を作ってしまう。未だに制御出来ていないのだ。ちょっと落ち込むと僕の気持ちを察してか、ザファル様は優しく頭を撫でてくれた。


「…ザファル、シュエ。踏むと痛いからな、動くなよ。」

 ハキーム様は宝石を退かして、箱にしまう。宝石に驚かない様子や僕の名を呼ぶことからして、どうやら僕のこともザファル様から聞いているようだ。手際よく片付けてくれて、ベッドの上に何かの盤を置いた。なんだろうと見ているとその上に駒を置いていた。きっとチェスのようなボードゲームなのだろう。並べ終わるとザファル様の向かいに座った。


「…ザファル、話し合いをしよう。」

「あぁ!いいぜ。」

 ボードゲームをするなら抱きついたままだと邪魔になってしまうので、離れてザファル様の隣に座った。ルールを説明するかとハキーム様が聞いてくれたが、説明されてもよくわからないだろうから首を横に振ると、ゲームは開始された。

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