日記/ランドスケイプ

 最近、四季くんの様子がおかしい。

 ここ何日か、家に帰ってきていないし、その前の日は一日中ずっと上の空だった。

 でも私には、四季くんが何に悩んでいるのかがわからないままだ。



 何かがあったのは確か。

 証拠に、今、私たちの家には憔悴しきっている岸井さんがいるから。

 だけど、四季くんはその”何か”について、私には教えてくれなかった。

 教えてもらおうと思っていたけれど、岸井さんのお世話とか、学校とか、バイトとかで私も時間が取れなくて、聞き出すことができなかった。



 …………。

 ほんとうは、相談してもらいたかった。

 どんなことでもいいから、私に教えてほしかった。

 そうしたらきっと、少しでも彼の役に立てたのに。

 でも今の私は無力で、何をやったらいいかすらわからない。

 せめて、四季くんの気持ちだけでも知ることができたら……。



 そう思って、私は今日、ここに来ていた。

 ここは、多摩川沿いの廃墟だった。

 四季くんは昔――昔と言っても、ほんの二、三年前までだけど――ここに住んでいたことがあるらしい。

 今でも、倉庫みたいな使い方をしているから、私も何度か来たことがあった。

 ここに来れば、何かがわかる気がした。



「おじゃましまーす……」


 中には誰もいなかった。

 部屋はけっこう整理されていた。


「……?」


 机の上に、一冊だけノートが置かれていた。

 表紙には『My Landscape Phase.1』と書かれてあった。


「なんか……見てるこっちが恥ずかしくなるニャ」


 苦笑しながらそれを開いてみる。


「日記……かな……」


 私は、びっしり書かれているを読むことにした。






2026年1月16日


今日から日記をつけることにした。

日記と言っても、その日の何時何分に何をしました、とかじゃあなくて、今の自分の想いを書いていけたらいいなって思う。

だから正確に言えば日記じゃなくて、その日僕から見えた世界の景色の発露、といったところかな。


昨日、余命宣告を受けた。

僕は、あと半年もしたら死んでしまうらしい。

まあ僕は、一度死んでいる身だし、これまで先のことなんて考えずに戦ってばっかりいたから、しょうがないと思う。

それに、今まで背負ってきたみんなの想いを降ろしていいんだって思うと、せいせいする。この荷物、結構重いんだよな。

でも、死への恐怖がないと言ったら、さすがにそれはウソだ。

フレンズである僕は、死んだら跡形もなく消えて、骨すらこの世界には残らないだろう。

だから、忘れられてしまうかもしれない。

死ぬことというよりも、今、ここにいる”坂本四季”という存在を誰も思い出さなくなってしまうのが怖い。

まったく……強欲だな、僕は。

結局、自分でも生きたいのか死にたいのか、分かんないや。




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