コントラディクション

「健ちゃん健ちゃん、注射打ってー」


 注射器を持って健ちゃんのところへ向かう。



 僕は毎朝、細胞分裂阻害剤のコルセミドを接種している。

 これを打つことで、僕、シキの死期は少しだけ先延ばしになる。

 ……ダジャレです、すみません。



 僕は、なんでこんなにも自分が毎日真面目に注射をしてもらっているのか分からずにいた。

 この治療を止めれば早く楽になれるって言うのに。

 まったく、矛盾してるな……。




「ねえねえ、許可下りそう?」


 健ちゃんに訊いてみる。

 何についての許可かというと、フレンズのワクチンを患者さんに接種することについてだ。

 レポート書いた時に頼んではいるのだが、なかなか返事が帰って来ない。


「うん、そろそろ下りそうな感じはする」

「なんでこんなに時間かかってんのかな」

「人に害が出るような成分が入ってないか調べてるんだろ」

「ああ、ワクチンいくつか没収されちゃったもんね」

「ああ。あれ使って調べてるみたいだぞ」

「ふうん」


 何はともあれ、その許可が下りなければ僕らにはできることがない。




 治療を終え、2人で研究室に戻る。

 部屋にはいつも通り竜持くんと七羽さんがいる。

 何やら2人とも機嫌がよさそうだった。


「なんかいいことでもあったんですか?」

「ん? いや……なんでもねえよ。おい、健斗。昼飯行こうぜ」


 竜持くんは質問から逃げるように健ちゃんと一緒にこの部屋を去っていく。


「じゃ、私も行こっかな――」


 七羽さんも逃げようとしたので手を掴んで止めた。


「――っと、何すんのよ」

「質問の回答を聞いていないので」

「竜持くんに聞いてよ」

「七羽さん、顔がにやけてますよ」

「な、なな、なっ……!」

「今日誕生日だし、プレゼントでももらった?」

「う、うん。ピアスもらった」


 どうやら渋谷で竜持くんと選んだピアス、相当気に入ってくれたようだ。

 僕も喜んでくれるか気になっていたから、少しホッとする。


「はい、答えたよ。だから離して」

「あ、ああ、うん。……ごめん」

「じゃあ、私もお昼食べてくるから」

「……ねえ、七羽さん」


 この研究室に一人で残るのは、なぜか寂しい気がした。

 つい半年くらい前までずっと一人だったし、ここでこうしてみんなと研究するようになってからも一人のことなんてたくさんあったのに。


「お昼ご飯、ついてっていい?」


 なんで最近、こんなにも寂しく思うことが増えたんだろう。

 自分でも自分が分からない。








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