バベル

 フレンズ研究を4人でするようになって3か月くらい経った。

 研究はそこそこ順調に進んでいる。

 薬剤はもう完成間近で、これから動物実験を行っていこうとしている段階。



 今はお昼休み中。

 僕と健ちゃんと竜持くんは、研究室でグダグダしていた。

 いつもならお昼は外にご飯に行ったりするのだが、今日は雨でそんな気にもならなかったのだ。

 それにここ最近、なんか体調悪いし。


「あー、頭痛え」


 竜持くんが独り言のように言った。


「えー、マジすか。最近僕も頭痛いんですよねー」


 僕が応じると健ちゃんが冷静にその原因を分析してくる。


「気圧じゃね?」

「気圧かなあ」

「うん、たぶん。だって風邪引かないっしょお前たち」

「んー、僕は人間じゃあないから引かないと思うけど、竜持くんは?」

「俺もここ5年は熱出たことねえな。予防接種以外は」

「ほら、やっぱりバカは風邪引かないんだよ。だから気圧だって」

「ほんとだね」

「手前らな……」


 時間を確認すると、13時を過ぎていた。


「んあー、もうお昼休みの時間終わりだよー。あー、仕事したくなーい。古木のようにただ寝ていたいー」


 とは言いつつも、昼食をとらなかったせいか空腹感はある。


「ねえねえ健ちゃん。そこにあるみかん取って」

「お前の方が近いだろ。自分で取れ」

「上司命令」

「……はいはい」


 健ちゃんがみかんを手渡してくれる。

 食べたいが、皮むきは面倒。なのでそのまま食べることにした。


「……みかん皮むきすら面倒なら餓死してしまえ」


 そう突っ込まれたので仕方なく普通に食べることにした。



「そういえば、七羽さんは?」

「あいつ、『フリーダム』行ったぞ」

「ああ、それは知ってます。でももうお昼休みの時間終わってるのに帰ってきてないじゃん」


 七羽さんは実はけっこう真面目なので、そういう時間には遅れないタイプなのだけど。


「のんのんちゃんに捕まってんじゃない?」

「……そうなのかなあ」


 健ちゃんはそう言っているけど、のぞみも相手の計画を狂わせるようなことはしないと僕は知っていた。

 この3か月ほどで、僕はのぞみがどれだけ融通の利かない生真面目すぎる人なのか思い知ったのだ。


「ま、いっか。先に始めましょう」


 みかんを食べ終えた僕は、2人に号令を出した。

 その時、ドアからバタン、と大きな音がして七羽さんが入って来た。


「はい遅刻っすよー」


 そう言いながら彼女の方を見る。

 と――。


「なんかあったの?」


 七羽さんの顔は誰かにぶたれた後のように、真っ赤に腫れあがっていた。


「……のんのんちゃんが……さらわれたっ!」

「はあ?」

「お店の前で、スーツの男の人に……」

「どんくらい前?」

「15分……くらい、かな」

「車?」

「うん」


 話を聞いていくうちにだんだん状況が呑み込めてきた。

 と同時に、胸の奥の方で何かがふつふつと湧き上がってくる。

 久々の感覚だった。

 たぶん、ジローくんに裏切られたって思った時以来。

 それは、怒りだった。


「四季?」


 僕の異変を感じ取ったのか、健ちゃんが声をかけてくる。


「ん? ああ、なんでもないよ? のんのんちゃんは僕が見つけてくる。みなさんは研究続けといてください」

「でも……」

「大丈夫。これでも僕は強いんだから。じゃあ、よろしく」


 健ちゃんが何かを言いかけていたが、それを聞く前に研究室を出た。




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