紹介

「と、いう訳で……」



 四季さんが周りの人たちニヤニヤしながら見渡している。

 四季さんを取り巻く人たちはみんな揃って、『はいはいワロスワロス』っていう言葉が聞こえてくるくらいあきれ返った表情をしている。


「あなたがたは今日から僕の助手! そして僕は上司! そのことをビシッと頭に叩き込むのだ、カーッカッカッカ!!!」


 …………。

 まあ、みなさんがあきれてしまうのも無理はないくらい、今日の四季さんはいつになくひどかった。

 たぶん、頭のねじが外れてしまったのだと思う。いや、本気で。


「おっと、3人とも、返事がないよ。分かりましたか!!!」

「……はいはい」


 目鼻立ちのはっきりとした男の人が諦めたように返事をした。



 えっと……ここで一応、状況の説明をしておく。

 私たちは今、『フリーダム』でいわゆる顔合わせ会みたいなものを行っているのだ。

 いや、正確には私は参加しているわけではなく、他にお客様もいないので近くで彼らを観察しているだけだが。

 なんの顔合わせ会かというと、四季さんのフレンズ研究のグループの会合だった。

 研究を始める前に一緒にご飯を食べて親睦を深めましょう、という意図のようだった。

 でも様子を見ていると、どうやら4人とも知り合いだったらしい。それもずいぶん親しいようだ。



「なんてだらしのない返事をしているのですか、竜持くん! 僕の質問には『イエス』か『ノー』で答えてください! それで返事の最初と最後に『サー』を付けるのだ!!! 分かりましたか!!!」


 せっかく返事をしてあげたのになんか噛みつかれてるかわいそうなこの人は、下山竜持しもやまりゅうじさん、という方らしい。

 どうやら昔、四季さんと仕事の同僚だったみたいだ。


「……は?」

「『は?』じゃなーい!!! まったくもう……七羽さん、お手本を見せてあげるのだ!!!」

「だが断る」


 隅っこの方でロールケーキを食べていた女の子が、その動きを止めることなく一瞬で拒否した。



 この子は……あ、いけない、この方は岸井七羽さんという。

 前に一度このお店に来てくれたことがあったので覚えている。

 身長143センチの私よりも小さくてどう見ても小学生か中学生にしか見えないが、私よりも5歳くらい年上だった気がする。

 ちなみに、下山さんと岸井さんはお付き合いしているみたいだ。



「なんだ? 上司に向かってそんな口調でいいと思っているのか?」

「はあ? あんたこそ年下の分際で!」

「年齢など関係なーい。今は僕が上司、あなたたちは部下、なの、デス! 分かりましたか? ななはえもんさん」

「分からんわ。分かろうとも思わんわ」

「うう……みんな冷たい。どうして? 健ちゃん」

「いや、そりゃそうだろ」


 健ちゃん、と呼ばれた男の人は安田健斗さんだ。

 パパの病院で働いているからよく顔を見る。

 四季さん曰く、四季さんと安田先生とは、前世からの因縁があるらしい。

 ……厨二病乙。




 あ、他のお客様がいらっしゃったみたい。


「みニャさま~、申し訳ニャいんだけど、もうちょっと声のトーン落としてもらえるかニャ? 他のお客様がいらっしゃったみたいニャ」

「あ、ごめんね、のんのんさん」


 岸井さんが素直に謝ってくる。


「のんのんさん?」


 下山さんと安田先生が不思議な顔をしている。

 これは自己紹介をしておいた方がよさそうニャ。

 2人の方をまっすぐに見て背筋を伸ばす。


「ご来店、ありがとうございます! この喫茶店で働く、のんのんニャ!」

「……ニャ?」

「のんのんは、この喫茶店を全国で1番のメイド喫茶にするために武蔵小杉に舞い降りたプリンセス! だからニャンニャン語しか話せないのニャ」

「いやどういうこと?」


 安田先生は首をかしげる。


「うわー、久々に聞いたわ、それ」


 四季さんが拍手してくる。


「はいはい厨二病厨二病」


 岸井さんは3つ目のロールケーキを食べながらぶっきらぼうに言う。


「なんで俺の周りには変人しかいないんだよー」


 なぜか下山さんは悲しんでいた。



 フレンズ研究は、この4人で行うみたいだ。

 なんか見てる限りみんなちょっと変わってそう。

 ……まあ、あんな自己紹介してる私も人のこと言えないか。



 とにもかくにも、四季さんが楽しそうだからいいんじゃないかな。









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