時間

「また……増えちゃったな……」


 四季さんは私の話を聞き終わると、そう呟いた。


「どういうこと?」

「いや、こっちの話。詮索しないでくれると助かる」

「相手にベラベラ話させておいて。自分勝手ですね。でもまあ、話さなくていいよ」

「感謝します」


 四季さんにはミステリアスな存在のままでいてほしかった。

 ”プロフェッサーエス”の本名を知れただけでもうお腹いっぱい。

 今は、四季さんのすべてを知ろうだなんて思っていなかった。



 四季さんはすっかり冷めてしまったカフェオレを飲んで、それから黙り込んでしまった。

 相変わらず、その表情からは何も読めない。

 でも、どんな言葉を私にかけるべきかを考えているのかな。


「ひとりで背負うのは、苦しいよね」


 四季さんはやがて、そう言った。


「今日はありがと。本当のこと教えてくれて」

「待って!」


 イスから腰を浮かしかけた四季さんを私は止めた。


「…………」

「私ね、あの日のこと、ずっと後悔してるの。あずさちゃんが生きてるように振る舞う佐田さんを認めて、私自身もあずさちゃんは今もそこにいるって思い込んで……。今の佐田さんを見ているのは、辛いの。辛さに押しつぶされそうになるの。もう、限界だよ……」

「…………」


 これまで誰にも言ってなかったことをこの人に言ったからか、次々と私が心の中に溜め込んでいた想いが溢れ出してしまう。


「私の時間はあの時からずっと止まったままなの。また私は、私の時間を進めたいの! 私自身を変えたいの! だから、だから私に、力を貸して、くれませんか?」


 自分で自分が言ってることがわからなかった。

 もう言っていることめちゃくちゃで、支離滅裂で、後から思い返してみてもきっと何言ってたかわからないだろうけど。

 それでも四季さんは、私の話を聞いてくれて。


「だったら、変わればいい」


 今までに聞いたことないような真剣な声だった。


「人間は、変われる生き物だよ。成長できる生き物だよ。君が君自身を変えたいなら、変えればいい。………君がやりたいことを、やりたいようにしてみればいい」


 やりたいことを、やりたいように………。


「それで? 具体的にはどうするんすか?」

「協力、してくれるの?」

「当たり前だのクラッカー」

「いつのダジャレだよ」

「長年この国で愛されているダジャレです、キリッ! ってやかましいわ」

「…………」

「…………」

「………ふふっ」

「ふふふふふ………」

「ふははははは‼」

「ふははははは‼」


 気が付けば、なぜか二人で声をあげて笑っていた。



 その日からまた、私の時間は動き出した。



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