真実Ⅱ

 その後、私はもともと体が強くないこともあって、検査やら何やらで、結局1か月くらい入院していた。

 でもその間のことはあまり憶えていない。

 話によると、私はPTSDのような状態になっていて、目を覚ましたらパニックを起こし、睡眠薬を投与されて眠って、の無限サイクルだったみたいだ。



 1か月とちょっと経って、ようやく症状が落ち着いてきて、私は退院した。

 そしてその足で、『フリーダム』に向かった。

 友里さんには、病み上がりなんだから無理しないで休みなさい、って言ってもらったけれど、忙しくしていないとあずさちゃんのことを思い出してしまいそうで、無理を言ってシフトを入れてもらったのだ。

 ”のんのん”として振る舞っているときは、不思議なことに細い針を何本も刺されたような心の痛みもほとんど消えていた。



 しばらくすると、佐田さんとひかりさんがお店に入って来た。

 佐田さんは珍しくメガネを掛けていた。

 それもなんか変わった形の。


「いらっしゃいませ! おお、兄者にひーにゃん、久し振りだニャ!」

「ああ、久し振りだな」

「久し振りね」

「……そうだぞのんのん。最近ここに来てもちっともお前を見ないから心配していたのだ。何かあったのか?」


 …………。

 違和感があった。


「そうなのニャ、非常事態だったのニャ。フジコ博士の命令でのんのんはふるさとのビオラ星に帰っていたのニャ。そしたらなんとそこで! 前世での恋人と遭遇してしまったのニャ~!!! まあもちろん、復縁はお断りしてきたけど」

「お前には失望したぞ、のんのん」

「ニャンで?」

「お前はこの喫茶店を日本一のメイド喫茶にするのではなかったのか。そのように男にうつつを抜かす暇など無いのではないか? なあ、あずさ。お前もそう思うだろう?」


 また違和感。


「ニャはは、それもそうだニャ。それで2人とも、ご注文はお決まりですかニャンニャン?」

「ひかり、オムライスでいいか?」

「うん、いいよ」

「それなら、オムライス3つだ」

「あ、やっぱりアタシ、オムライスじゃなくてコーヒーゼリーにする」

「じゃあ、オムライス2つと、コーヒーゼリー1つでいいかニャ?」

「ああ、頼む」

「了解ニャ! ちょっと待っててニャ」


 厨房に戻るとき、ひかりさんと目が合った。

 私と話がしたいということがわかった。



 しばらくして、佐田さんはひとりで帰っていった。

 たぶん、ひかりさんが何か適当な理由を付けて帰したのだろう。

 そのタイミングを見計らって、私は彼女のもとに向かった。


「ひーにゃんひーにゃん、のんのんに何か用かニャ?」

「……なんでわかったの?」

「顔に書いてあったニャ」

「失礼な。毎日ちゃんと顔洗ってるわよ」

「そういうことじゃないニャ。それで?」

「……もう大丈夫なの?」

「え?」

「あずさと最後に話した相手、のんのんさんだって聞いた」

「……そのことか……ニャ」

「…………」

「……今はまだ……その話はしたくないニャ」

「……ごめん」

「用事はそれだけ?」

「いや、しゅんのことで話がある」

「兄者の?」

「うん。さっきのあいつの様子、見たでしょ? あいつは今でも、あずさが生きてるって思い込んでる。アタシたちは、あいつをどうしてやればいいのかな?」


 さっきの会話での違和感の正体はそれか……

 でもそれは、私がどうこうできることではない。

 そう思ってしまった。

 私は、間違えてしまった。


「兄者は、あづにゃんがいた方が幸せのはずニャ。だから、のんのんたちもあづにゃんがいるものだと思って生活すればいいニャ」


 その瞬間、私の時間は止まってしまったんだ。






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