ギルト
『フリーダム』の前で峻平くんとは別れた。
もう辺りはすっかり暗くなっていた。
「じゃ、私も帰るから。改札まで案内よろしく」
「あ、うん」
七羽さんにわざわざ来てもらったのは、峻平くんのことを
一般の人にはほとんど知られていないが、この世界には”スキル”と呼ばれる特殊能力を持つ”スキルコレクター”が、少なからず存在する。
スキルは多種多様である。例えば、水を操ることができたり(これは僕のスキル)、死者と話すことができたり、未来を予言できたり……。
しかし、どんな便利な能力でも使うのは所詮、人間だ。
だからそのスキルの威力は、人間の能力に依存すると言っていいと、僕は考えている。
七羽さんもスキルコレクターの一人だった。
彼女は”人の過去が視える目”を持っている。
どういう経緯でその目を手に入れたのかは話せば長くなるのでここでは省く。
僕と初めて出会った時から、峻平くんは僕には見えない誰かといつも一緒にいるような言動をしていた。
それは単なる厨二病の妄想かもしれないが、もしかすると彼の心の傷の発露なのかもしれない。
そう感じたのだ。
だから七羽さんに峻平くんの過去を視てもらった、というわけだった。
「……疲れた」
七羽さんが右目の瞼の辺をさすりながら言った。
「ごめん。無理させちゃった?」
「いや、そんなこともないけどやっぱり長時間使うのは疲れる」
それはそうだよな。
スキルの過剰使用は健康に悪い。最悪の場合、死ぬこともあるらしい。
隣にいる明らかに小学生にしか見えない外見をした一つ年上の友人を見て、少し反省した。
それから、とりとめのない話をしながら3分くらい歩くと、東横線の改札口に着いた。
「あそこの階段上がれば東横線だから」
「ん。案内ありがと。それで、訊いてこないの?」
「…………」
「あんたの目的、なんだったっけ?」
僕は、峻平くんの過去について、まだ聞き出せずにいた。
人間は少なからず、過去に縛られて生きている。
過去の経験があるから、自分を自分として認識できるし、生きるための理由づけもできる。
僕だってそうだ。
僕には僕の過去があって、彼には彼の過去がある。
そんな他人の心に土足で踏み込んで、いいのだろうか。
「……今になって、他人のことを知るのがちょっと怖くなってきた」
「ふうん。まあ分からなくもないけど。じゃ、やめとく?」
「……いや、教えてください」
覚悟を決めた。
というより思い出した。
僕の生きる理由を。
いや、理由じゃない。今も生きていられる言い訳を、僕は思い出した。
何人も殺してきた。
何人もの
だけど、僕は今、ここでまだ生きている。
僕は何人も殺した分、幸せを失ってしまった人みんなの痛みや苦しみ、後悔を背負って生きていくんだ。
だから、峻平くんの過去に何かがあったのだとしても、それは僕が背負う。
「分かった。結論から先に言うと、きみが危惧してた通りになってる」
つまり、あずさちゃんは本当はもういないってことか……。
「はあ、やっぱそうか。そりゃあそうですよね」
「うん。まあけっこうなショック受けたっぽいよ。私、あんなの視たの三人目」
「ちなみに一人目は?」
「きみ」
「二人目は?」
「私」
「あそう」
僕らにもそれなりに壮絶な過去がある。
まあ、そうじゃない人なんて、この世にいないと思うけど。
「で、どうすんの?」
七羽さんにそう訊かれたけれど、まったく名案が思い浮かばない。
「うーん、どうすればいいんだろ」
「これについては正解なんてないよ。きみがやりたいようにやれば?」
やりたいようにやる、か……。
「でも、もしそれで誰かが傷つくことがあったら――」
「さっき彼に言ったことと重なるけど、なんの犠牲もなしにこの状況を変えられるなんて思わない方が良いよ」
「それは分かってる」
「ならよし。あと、もう一つ忠告」
「ん? 何?」
「猫耳の子には気を付けて」
猫耳の子、ってのんちゃんだな。
彼女も何か、峻平くんの過去と関係があるのだろうか。
そうじゃなくても、彼女とは一度、ゆっくり話をしてみたいんだよな。できれば真面目な話を。
七羽さんと別れた後、一旦家に帰り、着替えた。
やっぱり和服よりも洋服の方が動きやすいなって再認識する。
そしてもう一度、『フリーダム』に向かった。
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