第24話 グローバルなベイサイドビュッフェ
ホテルの自室でお土産たちを置いた私達は、早速ベイサイドビュッフェに向かうことにした。しかしこのホテルもまた、本テーマパークの多分に漏れず技術の塊のようだ。パンフレットによるならば「当ホテルのエレベータは動力式、ガバナーマシンがついていて安心安全」らしい。前世の世界の技術史を適用するならこういうエレベータが出てくるのは100年ほど後の事。魔女の業を適用すれば近いことはできることはできるが、このパークのそれは一貫して科学技術オンリーで作っている。アゼリンスキー侯爵家の開祖、後の一族が軍事技術者集団に発展するきっかけを作ったといわれた人物が私のような現代からの異世界転生者だとしても驚かない。
そして到着した本日の夕食会場はその名の通りビュッフェスタイルとのことだが、入場料を払えば食べ放題。丁度空腹が限界近くになっていた私たちにはありがたい。オシャレな雰囲気の店内に、洋の東西様々な料理が存在する。寿司やしょうゆポン酢などでさらりといただく和風チキンサラダや冷ややっこなどの前世の食卓になじみ深い料理から、シュウマイの蒸し籠にゆで加減を自前で調整できるラーメンに、西に進めばドリア、カレーと、メジャーどころから今生の世界ではじめてお目にかかるバルフェリア料理まで幅広くそろっている。この店の「世界の港からやってきた様々な食文化を体験いただきます」という触れ込みは伊達ではない。
更に入場券の半券で贅沢なメインディッシュを別途オーダーできる。今生の世界ならではの牛豚鶏の全部乗せにした魔物、バルフェリアンキメラ肉のハンバーグに生き続ければ生き続けるだけ際限なく旨くなる豚の魔物、メタボールポークステーキに、バルフェリア西部の港町の祝祭にも供されるカニパエリアなどがあるが、何がいいだろうか。
「折角ポートエリアに来たんです、海鮮にしてみたいです!」
セラティナのリクエストがありがたい。よし、メインはカニパエリアにしよう。
メインディッシュの注文を済ませ、早速予約で用意していただいた窓辺のテーブルに料理を並べていく私達。なじみの料理とそうでない料理をほどほどに取り合わせる。
公爵家の金銭感覚なら訳もないような入場料も、前世の価値観が残る私にとっては決して安くない。だからこそメニューはお腹の許す限り食べつくしたい。しかしそれもほどほどにすべきだろう。メインの料理は写真を見る限り結構大きい。メインディッシュが満足感をもってしっかりとお腹に納まるように加減を調整しなければならない。
そうして並んだ料理を夜景を眺めながらいただく私達。ガス灯がついた街の景色、灯台の明かりがともる夕暮れの港町を眺めて美味しい料理をいただく。なかなか贅沢な体験だ。セラティナとここに来れたことは、望んでいた以上の幸せだ。ただでさえ美味しいのに、彼女と一緒なら、美味しさは2乗3乗にもなっていく。
そんな思いと共に多様な味わいをかみしめながら料理を堪能し、大半の皿が片付いたころに、大ぶりなカニ甲羅に盛り付けられたパエリアが、満たされ始めた心にさらなる食欲をたきつけるような匂いと共にやってきた。
ゆらりと立ち昇る湯気、きらめくお米、色とりどりの野菜。そして、それらの輝きに負けずに料理の主役を気取るかにむき身。なるほど逸品。いただきます。
「美味しいです!」
セラティナの一口食べての感想を受けて、私も一口。むむっ、これは。
調理技術の高さによる絶妙な味の調和もさることながらこの手の料理だと自己主張しきれず隠れがちなコメそのものの味の良さが噛む度にじみ出てしっかりと感じられる。これにカニの格調高い塩味とうま味が全体をよりハイレベルな味わいに仕上げている。旨い。
食べ終わるころには、すっかり空も夜色。心もお腹も満たされた。
さあ、部屋に戻ろう。心地いい疲労感と幸福感で、何とも充実した感覚だ。
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