第23話 スイート・ペンギンズ・スール
水族館デートも名残惜しくも最後のエリア。極点エリアだ。
この世界でも北と南の果ては極端に寒く、そういう地域にはやはり寒さに適応した様々な生物がいる。前世の世界でも今生の世界でも、ペンギンなんかはその代表例。
発見の歴史の違い故に微妙に名が違うが、ペンギンたちはこのエリアの大水槽で悠々と泳いだり、あるいは陸地で遊んだりと各々自由にやっているようだ。案内板には個体識別用のタグの説明と、各ペンギンたちの性格や交友関係が細かく書かれている。
「浮気……、パリピ……、元ヤン……、イクメン……」随分生々しいワードが並んでいる。ぱっと眺めているだけではわからないが、水族館のペンギン社会というのも楽ではなさそうである。
「あ!スノウちゃんとコハルちゃん!私たちみたいですよ!」
セラティナの指さす説明を見る私。そこに書かれていたものは
「スノウ→コハル:起きているときも寝ているときもコハルといつも一緒にいたい」
「コハル→スノウ:スノウを実の妹のように可愛がっている」
こういうのもいるのか。さっそく説明板に書かれた2羽の識別表を見て探す。
水槽上部に岩場を模して造られた陸地にいる2羽は、確かに仲睦まじい。
スノウはコハルが移動するときには必ず一緒によちよちついていく。
そんなスノウがかわいいのか、コハルはちょくちょく立ち止まってはスノウの前で優しく翼をパタパタしたり、積極的にスノウの毛づくろいを買って出ている。
ペンギンながら実に微笑ましい光景である。
ペンギン以外にも、このエリアには寒い地域におなじみのトド、アザラシのような海獣たちも展示されている。オリンピック狙ってますといわんばかりの高速水泳を披露するものから、ペンギンの群れから離れたところで寝息を立てる個体まで、こちらも自由に生きている。そんな中でも特にびっくりなのがズキンアザラシである。
丁度求愛合戦のさなかだったのか、オスたちは鼻を風船のような勢いで膨らしている。あれではズキンというより、チョウチンとかフウセンといわれそうなものであるが、彼らなりのズキン合戦はヒートアップしていた。実に微笑ましい。
お土産売り場の中でも定番は、やはりお菓子とぬいぐるみである。
そんな中でもセラティナのお気に入りに無事選ばれたのは、ペンギンのぬいぐるみだ。先ほどのスノウとコハルの幸せそうな笑顔を見ていたら、欲しくなってしまったらしい。まあ、そうなるわな。当然これは2つ買うとして、私個人のお土産はフライドエッグジェリーぬいぐるみと海洋生物のミニ書籍。前者は枕として、後者は雑学教養のためのものである。
後はカロリーヌやお兄様、王太子殿下にも何か買っておきたい。前二人は各々の好みに合わせて甘味と仕掛け玩具を購入した。しかし流石に雑に缶クッキーで済ませる、とするには殿下は少し偉すぎる。個別のものが必要だろう。とはいえ困ったことになった。王太子殿下が百合のほかに好きなもの。ゲーム内に全く示されないのだ。特段ゲーム内に提示される贈り物の選択肢のうち、大外れになるものは存在しないが、その分大当たりもわからない。ああ、此処が前世ならスマホで先ほどのスノウとコハルを撮影して、「仲睦まじいメスペンギンです」と説明すればいいだろうが、さすがのアゼリンスキーもスマホの開発には至っていない。残念無念。とりあえず、本年時点でのペンギン達の関係を本にしたものなら置いていたので、これにしてみよう。
「マリーお姉ちゃんも私もお土産、いっぱいになっちゃいましたね。」
「それだけ一緒の思い出ができた、ということです。」
セラティナはペンギンぬいぐるみのほかにも、ヨアンナやご家族にお土産を買っている。二人とも両腕に下げた袋がパンパンだ。さすがにここからもう今日のアトラクション巡りは不可能だ。ホテルの部屋に荷物を置いて、夕食にしよう。
春の暖かな夕陽を背に、今宵の宿に向かう私達。
なんだかこうしていると、前世からの夢がいくつか叶ったみたいで、幸せが満ち溢れてきた私だった。
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