第21話 心弾むドルフィンステージ

 噴水のしぶきと共に、ステージ上に楽器を持った奏者が現れ、子気味いいミュージックを奏で始め、これに合わせてステージ端の水槽からイルカが泳ぎ出る。

ああ、まさにこれこそがイルカショーの開演だ。

「ウォーターステージパフォーマンス!まずは基本!円のフォーメーションです!」

スタッフの声と笛に合わせ、イルカたちは待ってましたとばかりに綺麗な円の陣形を見せる。さすがはイルカ。王宮の兵士もかくやというほどの練度の芸だ。

「さあ、皆さまに顔をお見せして!」

続けてイルカ達は上半身を持ち上げ、立ち泳ぎのような体勢。

「イルカさん、可愛いですね!」

そういって座ったままイルカの立ち泳ぎの真似をするセラティナ。かわいすぎて心が弾む。思わず体が勝手に動いてしまう。


 そして曲が弾むようなパートに移行すると同時に、合わせてスタッフの指示が飛ぶ。

「はい!それではみんなでハイジャンプ!皆様は水槽の上のボールにご注目!」

確かに水槽の上10メートル位のところにビーチボールのようなものがつられている。あれをジャンプして触れるのか。

ステージ中央でさながらヒーローのように片腕を突き出すスタッフに合わせ、イルカたちは順番に直上めがけて順番に飛び上がる。

彼ら自身の白黒の流線形ボディも相まってロケットのようにも見えるその挙動で、彼らは見事確保して見せた。これには観客一同拍手喝采である。私達もこれには一心不乱の拍手。


 更にはここから彼らの挙動は精密で派手なものが次々と繰り出される。

「さあ、エースパフォーマンスの時間です!どうぞ!」

一糸乱れぬ彼らは、ジャンプの位置を工夫し空中に人文字ならぬイルカ文字「A・C・E」を描いた。

イルカは賢い生き物であるというのは少なくとも前世の世界なら常識だが、此処までのものなのか。下手な人間より賢いのではないか?

「それではここで当館のトレーナーとイルカの絆の強さもご覧いただきましょう!」

ステージ奥から現れたスタッフ達は、海賊のようなステージ衣装を着ている。

「行くぜ相棒!俺たちの友情を見せてやろう!」

彼らのセリフに合わせてイルカ達は一斉にステージに向かい、トレーナー達を乗せていく。更にそこからサーフボードの要領で人間を乗せながらぐいぐいと水槽の荒波を突き進むイルカ。一心同体とはまさにこのことだ。一朝一夕で身につくパフォーマンスではあるまい。

「私とマリーお姉ちゃんもあれくらい仲良くなりたい!」

ぎゅっと抱き着いてくれるセラティナ。それはもうなってると思いたい。

イルカもかわいいが、はしゃぐセラティナも負けていない。

本当にここに来てよかった。


 「さあ、パフォーマンスはいよいよ大詰め!イルカたちのトルネードダンス!」

曲もステージも最高潮に盛り上がってきたところにイルカたちは横回転の動きを取り入れてシンクロナイズドスイミング。伸びあがりの高さで綺麗なウェーブ、そこから「D・O・L・P・H・I・N」とイルカ文字、更に曲の締めに合わせ最後にハイジャンプ。ショーパフォーマンスは大成功。大歓声と拍手のうちに終わる。

イルカ達はスタッフ達と共に胸の前にひれを折りたたみキザにポーズを決めて見せる。彼らの知性には驚かされるばかりだ。


 「イルカさん、可愛くてかっこよかったです!しゅば!しゅば!って!」

「ええ、とてもうまく演技も決まっていましたね」

席から立って移動中、イルカの真似をするセラティナ。

イワシの代わりになでなでを上げよう。かわいいご褒美だ。


 さて、まだ水族館のデートは始まったばかりだ。まだまだこの水族館には見どころがたくさんあるのだ。時間の許す限りじっくり見ていこう。クラゲに淡水魚に亀にと、いろんな生き物が私達を待っているのだ。

イルカショーの興奮で軽やかになった足取りで、私たちは続きの水槽のもとに向かっていった。

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