第20話 美しきかなベイサイド
ポートエリアにたどり着いた私達。「港町」といっても田舎のそれではなく、近代的に整備された都会の雰囲気漂う、石畳におしゃれなガス灯連なる優雅な観光都市の趣だ。街並みとして用意された各建物群も、白く美しい外壁で統一されているし、景観の為に置かれた噴水には、岩礁にたたずむ美しい人魚のモニュメントで、何とも言えずオシャレである。また、他のエリアは盛り土や高い木で外界の景色が阻まれているが、このエリアだけは、大海原を眺めることが出来る。港の雰囲気を出すうえで、なかなか贅沢なやり口だと思う。遠洋の船がうっすらと見えるのも上々だ。
無論、これをゆっくり眺めているわけにもいかない。このエリアの本格的な散策は明日に回すにしても、今日のうちに閉園時間までにアトラクションを後1つ遊んでいきたい。が、その前にまず、ホテルの部屋を確保する必要があるだろう。射的で勝ち取ったこのチケットはあくまで「宿泊費用を無料にする」チケットであり、「本日付の部屋の予約が取れていることの証明」にはならないのだ。
とにかくホテルに向けて歩くと、宮廷ともまた違うシックな高級感を醸し出すホテルが見えてきた。その雰囲気たるや気取った雰囲気の男女が夜景やシーサイドの景色を満喫しながらワインを嗜むような雰囲気である。
「はい、マリーヤ様ですね。ダブル部屋、506号室をご用意させていただきます。また、本券ですと夕食に当ホテル8階のベイサイドビュッフェを予約可能ですが、こちらいかがいたしましょうか?」
「予約します。」
「承知いたしました。良き宿泊をお祈り申し上げます。」
かしこまったやり取りは宮廷で嫌というほどしていて、慣れているはずだがなぜか緊張した。今日がオフの日だからだろうか。
ひとまずフロントでの部屋確保を完了した私たちは、さっそく本日最後のアトラクションを選ぶことにした。水族館は閉園時間までにあと1度だけイルカショーをやるらしい。また、此処までの散策で足が疲れているようなら、座って楽しめる水しぶきのコースターや海賊船のライドもありだろう。
「折角だから水族館のショーを見ていきたいです!」
水族館に決定だ。丁度ホテルの近くにあるのもいい具合だ。
ホラーエリアでも世界観構築に発揮した「雰囲気、ストーリー仕立てによる世界観没入」の力の入りぶりは、この水族館でも健在だった。
まず入場した後、壁面に描かれた海の光景は少しずつ深いものになっていく。
少し薄暗くしているのも、なんとなく海の底に潜っていく感覚にさせてくれる。
そしていよいよご対面となる水槽には、サンゴやナンヨウハギ、イソギンチャクにクマノミと、とにかく色彩豊かな綺麗どころ。
悪戯のつもりか、クラゲやマーメイドのような衣装の妖精さんも泳いでいる。この子たちは水陸どちらでも呼吸に支障が出ないようだ。ぜひ仕組みを解明したいところだ。しかし彼女たちも交えることで、多様性あふれる水槽は美麗の一言。
「綺麗……。マリーお姉ちゃんみたい……。」
うっとりと眺めるセラティナ。私は貴女にうっとりである。
そんな熱帯の海水魚の後は、エイやサメの舞い踊る大水槽。ここが水族館の売りになることをきちんと理解している証拠に、大ぶりで柄の美しいものを取りそろえたこの雄大な大海原の景色は圧巻だ。
それにしても21世紀にも問題なく水族館の見せ場として問題ないであろう程の大水槽のこの水圧に耐える水族館ガラスをしっかりとこの時代に用意しているところも、技術屋アゼリンスキーの矜持か。
感心しきりであったが、そうだ。イルカショーがあと少しで始まるのだ。
「マリーお姉ちゃん、座席おさえちゃいましょう!」
一旦順路を無視し、ショートカット用に用意された階段を駆け上りショーステージに向かう私達。会場はすでに大盛況で、これから始まるショーを待ちわびる人でいっぱいだ。それでも何とか間一髪で水はかからず、水槽に遠からずの絶妙な良席を確保できた。
「本当はここ、来れないかもって諦めてたんです……でもせっかく休暇が伸びたのなら、やはりここを見ないと帰れないなって思って!」
セラティナの涙交じりの笑顔。そうか。私の婚約者も粋なことをしてくれたものだ。
彼女のこの笑顔を守ってくれたのだから、帰ったらうんと妄想の種になりそうなセラティナ可愛い話をお土産にしてあげるとするか。
「さあ、本日この回で最後になりますが、イルカたちも元気いっぱい、張り切って練習の成果を見せてくれます!応援よろしくお願いします!」
いよいよショーが、始まろうとしている。
オレンジに染まり始めた空を背に、ショーの開始を告げる噴水が大きく上がった。
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