第19話 回る二人は歯車のように
かろうじて昼食を済ませた私達は、中央エリアの遊具に乗っていくことにした。
せっかく遊園地に来たのだ。乗れるものには乗りつくさなければ。
まずは観覧車である。
「大きい……王宮とどっちが高いかというくらいですよ!」
4メートルくらいの大きさの、スキーリフトみたいなものを自転車の機構で人力で回すものであればこのゲームの設定である18世紀のファンタジー世界でも近いものは作れるのかもしれない。しかし、出てきたのは前世の世界の21世紀にもあり得るような50メートル級のサイズ感。「とうとうやりやがったぞこいつら」という感覚である。丁寧にゴンドラ式。しかもこれを動かすためにモーターとポートエリアの水を用いる水力発電を持ってきた。この世界に存在する魔法の力で駆動部をどうにかしているのならまだしも、一切それを抜きにしたものを持ってきた。「現代人が考える中世は、実際のところ近世から近代初期のヨーロッパだ」といわれて久しいが、こんなものまで持ってこられてはたまらない。このエリアはもう現代だ。21世紀に生きている。さっそく乗り込み、一周回ることにした。
「凄い!二人で空に飛び上がった気分です!えへへ……」
二人きりで空の旅を満喫するセラティナを撫でながら、窓の外に広がる景色を堪能する。園内どころか王都、そして海まで見える。感動の光景だ。
降りた私達が次に乗るものは、コーヒーカップである。派手さで言えば観覧車に譲るが、こちらも優雅さや回転の機構のテクノロジーぶりでは負けていない。カップが回る間、否が応でもお互いだけが視界の中央に入る。
「マリーお姉ちゃーん!ちゅー!」
興奮したセラティナのチュー要求に、そっと頬を出す。ああ、かわいい。
二人きりの世界という感覚も悪くない。一人だけだと寂しいのに、二人だけだと幸せ。
永遠に続くようにも思える程のこのひと時の甘美さが、たまらなく愛おしい。
回転機構に合わせて音楽を鳴らすように仕込まれた中央のティーポットから流れる音楽も甘いものだ。合わせて紅茶を飲んだらおいしいだろうかと思うほどの甘さだ。
「幸せな時間でしたね!」
すっかり幸福感でとろけたセラティナと一休みしながら、幸せな昼下がりを満喫する。中央エリアはとくにデートしているような感覚が強い。ゲームのマリーヤもここに来ると好感度が上がることになっている。セラティナに対する当たりの強さや残虐さは理解しかねるものがあるが、此処だけは共感できる。
この中央エリア、デートスポットとして余念がなさすぎる。
そんなことを考えながらベンチで日向ぼっこに興じていると、アナウンスが鳴り響く。
「間もなく、ティータイムパレード・春のマーチを開催します。観覧希望の方は中央城前広場へお集まりくださいませ!」
ホテルのチェックイン時間もあと少しだけど、折角だから見てから行こう。
会場に移動した私たちの前に、優美なパレードが現れた。
キャラクターを乗せるようなコミカルさはないが、オーケストラの演奏に合わせて次々と車の仕掛けが展開していく。
伸びあがるつぼみは花開き、大きな蝶が羽ばたいて、クライマックスには大きなメイポールの周りに様々な姿の人形が踊る。
「お花がいっぱいで可愛かったです!」
春の喜びに満ちた良い眺めだった。はしゃぐセラティナの方がパレードよりかわいかったが。
さあ、そろそろ今日のお宿のあるポートエリアに向かおう。
どんな景色が待っているのか、楽しみだ。
私たちの乗ったエリア間馬車は、西に傾き始めた夕陽を惜しみながらも、南に向けて進路を取り始めた。
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