第18話 おひるごはん・クライシス
中央エリア。ここは園内でも特に「遊園地」の趣が強い。アゼリンスキー庭園を象徴する城の展望台。さらに王道の遊園地らしい遊具なんかはたいてい此処に集まっている。コーヒーカップに回転木馬、バイキングに観覧車。相変わらずこの時代の技術水準に毎度毎度一歩踏み越えたようなものを持ってくる。
また、「この遊園地での思い出作り」をテーマとするこのエリアには、今回の目的地でもある郵便局やお土産物店街なんかも存在する。
ひとまず私は便箋を購入し、セラティナ邸に宛てて休暇の延長と今夜は泊りになる旨を記入した。ここで買える便箋はどれも華やかな挿絵が刷られていて綺麗だ。さすがテーマパーク。雰囲気出しに余念がない。
とりあえずギリギリではあったが真昼の回収に間に合ったので、おそらく今日の夕食時にはセラティナ邸に届くはずだ。
「そろそろお昼ですね!昼食にしましょう!」
そう、食事である。昼丁度のこの時間帯。中央エリアのレストランは当然、混雑を極めている。そしてバルフェリア人は基本、貴賤貧富の差はあれど昼食や夕食のような一日の柱となるような食事は片っ端からじっくり1~2時間近くかけて何品も頼み、フルコースのように食べる。つまりこのように一度席が埋まってしまうとなかなか空きができないのだ。対策としては数日前から席を予約することだが、あいにく今日の私たちは今朝思い立ってここにきている。当然予約なんてしていなかった。
これは厄介なことになった。まさか「私たちは公爵家と男爵家の人間だぞ」と喚いて席を強引にこじ開けるような真似はしたくない。
とはいえ、先に羊羹とお抹茶をいただいていたため空腹が全くこらえきれないようなものでは……。
「ぐぎゅるるる……」
セラティナのお腹がなった。前言撤回。マリーお姉ちゃんたる私にとってこれは緊急事態だ。どこでもいい、椅子一つでもいい、空いていないか。相席でもいい。
もうレストランなんて悠長な選択肢はとれない。ひとまず贅沢な食事は夕食まで我慢だ。何とか列に並んで屋台弁当を確保。私たちの分で丁度売り切れた。奇跡だ。
「今日も5000食完売、ありがとうございます!食後の器は屋台に返却お願いします!」
さっそく空いているベンチに腰掛け、ふたを開ける。
レストランでゆっくり食べる食事と比べるとだいぶあわただしいが、これもなかなか贅沢な弁当だ。さすがバルフェリア。ゲームでも「美食の王国」の異名をとり、いちいちグルメ演出に力を割いていただけのことはある。
「いただきまーす!」
まずはサフランライスとふわとろタイプのオムライス。柔らかく卵の自然な滋味とデミグラスソースの濃厚な味がいい塩梅に絡まる。旨い。
次にハンバーグ。冷めても旨いと評判のこれも、買いたてホカホカのものは肉汁が口中にはじける。旨い。
更に海鮮はエビグラタン。クリームソースはミルク味をしっかり出して、エビのプリプリ触感をよくアシストする。旨い。
専用の器に入ったニンジンのスープも、くどくない塩味とニンジンの風味がいい具合に調和し、油多めな舌を丁度良く洗う。旨い。
デザートはスイートポテト。サツマイモの甘みが自然だ。ついてきているアイスティーに絶妙に合う組み合わせで、これだけでも商品化しておかしくない。旨い。
「ごちそうさまでした!」
青空の下、セラティナのおいしい笑顔がまばゆく輝く。
ああ、いい食事だった。
「返却ありがとうございます!」
弁当容器を屋台に返却し、私たちは足取り軽く中央エリアの遊具方面に繰り出す。
何に乗ろうかな?2人の楽しみな心が軽やかに弾んだ。
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