第16話 貴女色のお抹茶、私色のお菓子
アゼリンスキー庭園東洋風エリア。
前世の世界の言葉で言うなら純和風。こちらの世界の話なら「桜輪国風」となるこのエリアはホラーエリアと打って変わって全体的にゆったりめの雰囲気。こちらのアトラクションには忍者からくり屋敷だったり弓曳童子や習字人形による実演に、私たちの一番の来訪目的の和庭園を眺めながらのお茶がある。
茶屋に向かう道すがらにも竹が植えられていて、なんというか雅な雰囲気だ。
ところどころに飾りのように斜めに切り分けられたところには、すっぽりと「竹取物語」よろしく……いや、これはからくりじゃなくてこの庭園の妖精か。
ホラーエリアの個体もそうだが、放し飼いにされて遊んでいるだけのように見えて、世界観の維持になかなかいい仕事をしている。
また、街並みのエリアには竹細工なんかもお土産にあって、なんとなく目移りしてしまう。そういえばお土産に髪飾りなんかどうだろう。
「お嬢様がた、良い石があるよ。飾りをこさえていきなさるか?」
店員さんのおすすめはヒスイとアメジスト。うんうん。よさそうだ。
「図面もこういうのがあるよ。」
なかなかきれいだ。クローバーとシロツメクサの花のようなデザイン。セラティナのイメージにピッタリ。
「ではこれでお願いします。」
「でき次第お宅におとどけするからね。」
「アメジストのつけて、いつもマリーお姉ちゃんと一緒にいるみたいにしたいですね!」
ああ、お揃いの髪飾りなんてつけたらますます私たちはカップルだ。
でも、お互いを頭に感じながら過ごすというのもなかなかいいと思う。
前世では義妹との仲は悪くはなかったとは思うが、こういうことはそういえばしていなかった。お揃いものをつけて離れていても一緒の気分。なんてすばらしいこと。すればよかった。
さて、忘れてはいけない。私たちはのどが渇いて、お茶を嗜みに来たのだ。
さっそく「名物の一杯」を求めて庭園に向かう。
「抹茶・羊羹のセットを2人前お願いしますね。」
店員さんに注文をし、支払いを済ませた私たちは、席から庭園の景色を眺める。
「水がないのに海みたいなんですね!」
枯山水である。よもや前世の日本ならともかく、近世ファンタジー世界でこの景色が見られようとは。なんとも心静まる景色。
よく見れば岩の数は16。手元のパンフレットによれば、17個目の岩を探してみようとのことだけど……。
「2人で一緒なら、きっと見つかります!」
捜索に協力してくれることになったセラティナ。
2人で離れたところから見て、岩を探す。
「1,2,3,4……16……あれ?」
15個までは同じ岩を指さしていたのに、16として指さした岩は違うものだった。
確認のため、セラティナのそばで岩を数えなおす。
なるほど、この建物からだとどの位置から見ても16個になるように岩の置き方を工夫しているのか。
前世でもどこかの寺でそのような工夫をしているという話は聞いたことがあったけど、実際に体験してみるとなるほど不思議だ。
「えへへ、マリーお姉ちゃんといっしょだから、17個見つかったんですね!」
無邪気に甘えるセラティナ。ああ、愛らしい。
愛の共同作業……というのは流石に言いすぎか。
「ご注文の抹茶・羊羹セットです!」
柔らかな香りのお抹茶。若葉色はちょうどセラティナのようだ。
「羊羹の紫、マリーお姉ちゃんみたいです!」
確かに、まるでお菓子までもが私たちのようだ。これはとても粋なチョイスだったと先ほどの自分の判断に感心する。
「貴女色の抹茶と一緒に、いただきましょうか。」
ああ、ほろりの苦みとしっかりとした甘み。私達の間にもきっと、こんな風に絶妙な幸せを合わせ奏でるような愛が育めたら、どんなにいいだろうと思う一時だった。
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