第15話 想像以上に本気の遊園地でした
やらかした。私はアゼリンスキー庭園を完全になめていたようだ。
ゲームのデートイベントではせいぜい一枚絵と一言の感想で済まされるため、アゼリンスキー庭園は中央の城型展望台と城下町を模したエリアでお終いなのかと思っていた。
実際はそのようなものではなかったのだ。エリアは1つや2つではない。動植物園のようになっていて、餌やり体験や珍しい魔物なんかを見学できる自然公園エリア。
港町を再現していて、水族館や水を扱うからくり、海賊船ライドなどがあるポートエリア。
悪戯な魔女のたむろする魔法の街というコンセプトでミラーハウスやお化け屋敷、などを置いているホラーエリア。
東の国のからくりをテーマに自在ものや弓曳童子なんかの技術をデモンストレーションする東洋風エリア。
とまあこのように様々なところがあり、エリア一つとっても小さな遊園地よりは大きいような場所ともなれば一日で回りきるとなると一つ一つを相当に駆け足に回ることになってしまうのだが……。
折角今日、こうして2人で遊びに来たのだから、一緒に楽しみつくしたい。
「えへへ!まずは体力があるうちにホラーエリア制覇と行きたいところですね!」
「ええ。私はそう簡単に悲鳴は上げませんよ。」
ああ、わがままな心というものはどの世界でも変わらない。あと一日。あと一日休みが欲しい。そんなことを考えながら、私たちはホラーエリアに向かう。
あえて日当たりが悪く、建物の影になるような場所が多くなるように設置されたこのエリア。個別にお化け屋敷もあるけれど、入り組んでいる建物、あえて冷却の薬品による背筋の寒くなる感覚づくり。墓場の骨や吸血鬼の人形をからくりで動かすだけでなく、こういうところにも気合を入れてくるのは流石だ。単純な驚かせばかりがホラーではないことをよく知っている。
「離れないでくださいねお姉ちゃん!」
「ふふふ、ギューッとしてあげましょうね。」
ああ、セラティナ、なんとあざとい。
さては怖いのと寒いのを言い訳に「ぎゅー」がしたくてここにきたのではなくて?
まあかわいいので「ぎゅー」はするけども。
そしてお化け屋敷である。単純に恐怖を味わわせるという事であれば歩かせるものでもいいとは思うのだが、まさかのライド型である。さすがアゼリンスキー家。技術アピールに余念がない。
そして本番の驚かせるパートではライドが特定の場所を通るたびに絵画がおぞましいものにすり替わり、ラップ音を鳴らしたかと思えば、見えないところに躍らせている人形をガラスに映し出してお化けが実際に室内に踊るよう見せる、時代を先取りしすぎているような気もする仕掛けもお任せあれとばかりにやってくれる。
……ということを言ってしまうのも雰囲気を壊してしまうので、これは今読んでいるあなたと私の秘密ということにしておくけども。
「マリーお姉ちゃんはお化けじゃないよね!」
私の胸元にグイっと顔を押し当て泣くセラティナ。なでなでをしつつも不覚にもこれもかわいいと思ってしまった。
本物の魔法や霊現象ではないとわかっていて怖がることもないけれど。
「次はマリーお姉ちゃんが……選んでください……。」
すっかり腰が抜けたセラティナをおんぶして近くのベンチに下ろしつつ、私は次のエリアを選ぶ。
すると、庭園のマスコットにもなっている妖精がふわふわと近くの花に降りてきて蜜を探り始めた。場所の雰囲気に合わせているのか、吸血鬼の格好をしている。その様子がなんというかかわいらしくて目で追ってしまう。
丁度お化け屋敷で長居した分、喉も乾いている。ランチには少し早いけど、隣の東洋風エリアの茶店で少しお茶にしたい。
「東洋風エリアですね!お抹茶と羊羹が美味しいらしいですね!」
さっそくエリア間の送迎馬車に乗った私達。
「お嬢様型に王子様から手紙が来ていますよ、どうぞ。」
馬車の乗り場のスタッフから渡されたそれは、私とセラティナの休日を2日伸ばすことを告げる手紙だった。なるほど、ゆとりをもってデートに臨んでほしいと。
「休暇が増えるということは…マリーお姉ちゃんを独り占めできる時間も伸びるということですね!」
ああ、神は私達を見捨てなかった。
ゆっくりと出来る喜びをかみしめながら、まだ午前の空のもと私たちは馬車に揺られていた。
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