第14話 一緒に行きたい、あの場所へ
淡くやわらかな朝日に照らされ、ふわりと目が覚める。
ほんのり心が温かくともる幸せな感覚と、まどろみ交じりのさわやかさが心地いい。
隣のセラティナは、まだ目覚め前の夢見に心おどらせているのか、まるで赤ちゃんのような微笑ましい寝顔。絵画にして飾りたいほどにかわいらしい。
もう少し眺めていてもよかったけれど、本日のお姫様にはそろそろ起きてもらわなければ。「おはようの口づけ」をそっとする。
「お姉ちゃん……おはよう…」
「ふふ、おはよう。」
「今日は朝からずっとマリーお姉ちゃんを独り占め!いっぱい甘えても……いいですか?」
「ええ、好きなだけ、甘えていていいのよ。かわいいお姫様。」
ゲームでもいろいろと反応が薄い王太子がわざわざ言及するほどに柔らかくさわり心地いいセラティナの髪を整えながら、今日のお出かけのことを考える。
「マリーお姉ちゃんと一緒に行くとしたら、わたし、アゼリンスキー庭園がいいです!」
アゼリンスキー庭園。
バルフェリア軍閥貴族の中でも数々の兵器類や暗器を開発している名門技術者集団アゼリンスキー家が、その技術の平和利用と誇示を目的に建設したテーマパークだ。
遊覧用の馬車で園内を回り、射的やからくり遊具、仕掛け手品のお化け屋敷なんかを備えた、「遊園地デートと言えば」といわんばかりの場所である。
ゲーム「バルフェリアンメモリアル」はクソゲーながら恋愛ゲーなので、当然攻略対象ともデートをする。その中のデートスポットなのだが、此処に来るプレイヤーはそう多くはないはずだ。なぜなら、ゲーム唯一の正規の攻略対象である王太子をここに連れてくると「うるさいばかりで楽しくない」とぶー垂れて好感度が下がってしまう。
バグで出せるマリーヤはどうかという話なのだが、マリーヤルートを解禁したら最後、デートは選択肢から消える。
だから、「マリーヤとアゼリンスキー庭園に行く」という行為は不可能である。
しかし、内部データ的にはマリーヤとヨアンナはここに連れて行くのが当たり。
マリーヤは使われるからくりの仕組みの巧妙さを乗り気になって語り倒し、ヨアンナは売店で調子に乗って食べすぎたり、射的の成績を自慢する会話データが未使用のままフォルダの奥底に眠っているはずだ。
「ええ、一緒に行きましょうか。いっしょに行けたら、きっと楽しいわ。」
「お姉ちゃんと一緒!考えただけでワクワクが止まりません!」
とかしてあげた髪をぶんぶん降って喜びを表現するセラティナ。このへんは千菜そっくりで、本当に愛らしい。
さっそく二人で朝食を済ませて、家を出る。気分が高まるのを感じる。
そういえば、実家にいたころは遊園地は近所になくて、大学生になるまで行ったこともなかったんだ。
「今度は千菜も連れて行ってあげよう」と胸に誓ったことを覚えている。
「それでは行ってまいります。」
「いってきまーす!」
さっそく目的地方面の馬車に乗る私達。この時代に数少ない大規模娯楽施設行きということもあって、バスは多くの人でごった返していた。
しかし、妙な目線を感じて振り返れば、そこにはご丁寧に不信感のない程度の眼鏡と市民階級の流行り服で別人の振りをした婚約者がいた。
「折角のデートになんということをしてくれるんだ」と怒りたい気分をぐっとこらえる。
あちらがかたくなに「空気の振り」をしているのだ。露骨に「気付いているぞ」と念を飛ばす方が却ってよくない気がした。
「あ、そろそろつきますよ!見てください!」
セラティナの指さす方角に、テーマパークのシンボルである妖精像が見えてきた。
服作りに執心していて、様々な衣を着たがる妖精さん、名前は作中でで来ないためわからないが、そんな愛らしい妖精たちがさまざまな階級や素材、あるいはコスプレのような服を着て、身分や立場を問わずあらゆる人を歓迎しているのだ。
まずはのところで歓迎のからくりオルガンの明るい曲に乗せられるように、私たちは入園ゲートに向かった。
今日はいっぱい、思い出を作れたらいいな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます