第13話 義妹の幸福

 セラティナたっての希望で、セラティナ邸滞在中の寝床は彼女と兼用になった私。

そういえば前世でも、私は義妹・千菜と川の字で布団を並べて寝ていたことを思い出す。ああしていると時折ごろりと寝返りで私にぎゅっと抱き着きに来た。そのたびに私は「千菜と本当の家族になれた」という実感がわいて胸に喜びが沸き上がったことが今でも思い返される。


 この希望がありがたい最大の理由はセラティナ邸のベッドである。ゲームでは魔女堕ちバグを生み出す元凶であるフラグ管理のシステムがこの下に落ちている。

これをどうにか没収しておきたいのだ。今のセラティナが誰かの操作のもとにあるのか否かに関わらず、セラティナとは穏当に仲良くなりたいのだ。ゲームのマリーヤルート解禁のような痛そうなうえにお嫁に行けなくなるようなマジカル拷問ショーはお呼びではない。

しかし、ベッドの調査もこれならいくらでも隙がありそうだ。明日の昼間でも一緒に外出するとかして、カロリーヌに「ベッドメイク」をお願いしよう。


 それにしても、この部屋の内装もまた、ゲーム本編と結構違うことに気づかされる。例えば本棚の本のラインナップ。ゲームでは学術書が中心で娯楽系の本はさほど多くなかった。しかしこちらでは甘味をテーマにした画集、友情もの、姉妹愛ものロマン小説等、こちらはまるでセラティナというよりは千菜が選んだようなものばかりだ。

無論、学術書たちもゲーム本編に登場するものはすべてそろっているようだが、それ以上に娯楽本も多いのだ。


 それ以外にも、随所の小物もセラティナというより千菜の趣味で選んだようなものが大半で、なんだか実家に帰ってきたような気分だ。

「なんというか、他所の家という感じがしないなあ……」

「えへへ!マリーお姉ちゃんにそう言ってもらえるなんて夢みたい……本当にここをマリーお姉ちゃんの家にしちゃうんでも大歓迎ですよ!」

甘やかしたくなる笑顔でそんなことを言うセラティナ。それはあれか。私を口説こうというのか?「私と結婚してこの家の人間になってくれ」という提案か?

悪くはないと思う。思うけど……立場が……。

「返事はすぐじゃなくてもいいですよ!1時間後とかでもいいのです!なーんて」

セラティナよ、それは十分にすぐの返事を求めているぞ。

「すぐに、とはいかないけれどね。王太子妃の立場は個人の意思で投げ出せるほど軽いものではないから。」

一応こう言っておこう。茶を濁すような物言いは自分でも好きではないが、現状軽々しく「王太子妃やめます」といえないのも事実だ。


 とりあえず、寝る準備を済ませたらあとはベッドの上でパジャマトーク。

コイバナと行きたいところだが、十中八九この様子だとあちらの回答は「マリーお姉ちゃんすき」なのである。別の話題をと頭を巡らせるうちに、隣から幸せそうな寝息が聞こえてきた。

振りむけばセラティナはとっくに寝てしまったようである。ああ、懐かしい。

千菜は幸せな感情が長く続くと眠くなることが多かった。千菜はどうしているだろうか。ちゃんと、幸せにやれているだろうか。


千菜、そしてセラティナ。私の愛おしい義妹たち。彼女たちに幸福を。たくさんの愛に守られて、幸福な人生を送ってほしい。

そうであってほしいなどと考えながら、私の側も眠気に包まれ、意識を夢の側に沈めていった。


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