第10話  セラティナ邸家宅捜索計画

現状私の最大の危機はセラティナの魔女化だが、毎日のように遊びに来るセラティナに、幸いそのような傾向はない。

一度魔女化が発生した後は、人間の振りをしていても目の色が赤くなるが、相変わらず緑色のままである。

ただ、今は大丈夫だとしても油断がならない。対策が必要なことに変わりはない。

まず発生しなかったことは幸運だが、このバグの凶悪さは「初日から実行可能」であることだ。

「初日にベッドを調べて魔女化→王太子に特攻しそのまま呪殺」という行為が大変流行した。。「王太子暗殺RTA」である。極めると1分を切れることと、絵面のひどさが大変に動画受けするということもあり、結構な動画が投稿されていた。

私も自己ベストとして54秒6を記録している。世界記録タイだ。えっへん。


「マリーお姉ちゃん、入りますね!」

そう、今日も仕事の合間に遊びに来る。

「王太子が王位継承式典などの慶事を祝う席には自らの手でケーキを焼く」というしきたりを学ぶ王太子とも一日のほとんどの時間会うこともなく、人恋しさに悶える私にとって、セラティナの訪問は幸せなひと時だ。


「ねえ、今度実家に戻ることがあったら、よろしければ私も遊びに行ってもよろしいかしら?」

「マリーお姉ちゃんならいつでも大歓迎です!」

頬ずりしながら快諾してくれるセラティナ。かわいい。ずるい。

ただこのお願いは、単なる交友とか、愛を深めるとかそういう意図だけのものではない。その主目的は魔女堕ちバグの実地調査だ。

この危険極まるバグを確定で発生させる方法として、セラティナのベッドの下を調べ、本来は日数進行に起因するイベントのフラグになっているアイテムを回収。

そのアイテムを使用する際に十字キーでセラティナの魔女化を行うイベント番号<430>を指定すると、魔女狩りイベントを経ずに魔女化可能。

後は王宮の王太子のもとにに直行し彼を呪殺するコマンドを選べば、自動でバッドエンドに突入して終わる。

つまり、このバグの温床であるセラティナ宅ベッドを検めておくことは重要なのだ。

しかし、吸血鬼でなくても承諾をうけてもない家に押し入るわけにはいかない。

だから、こうしてお宅訪問をしようというのだ。

まあ、そういうのを抜きにして個人として友人宅お泊りとか憧れたりするお年頃なわけなんだけども。

そもそも「マリーヤによるセラティナ邸訪問」はマリーヤルートでも存在しないイベントだし、王太子ルートでも自宅は絶対安全圏である。

いかなるマリーヤによる妨害や殺意も、家に逃げかえれば一切がなかったことになる。

そんなゲームの大原則を踏み越えた提案だが、まずは承諾がもらえて本当に良かった。


「マリーお姉ちゃんと一つのベッドで寝るの、夢だったんです!来週の末2日に休み取るので、遊びに来てくださいね!」

いちいちかわいいぞセラティナ。無性に頭を撫でたくなってしまうかわいさだ。

「えへへ~……」

私の膝の上でネコのように甘えるところが本当にかわいい。

前世の妹にそっくりだ。まるであの子が操作しているみたいだ。

そんな幸せなひと時に心和ませる。

「王太子妃様!入りますよ!セラ来てませんか!」

和やかなまどろみを吹き飛ばす、ヨアンナの大声。

ああ、幸せは長続きしない。特にこのような至福は長くは続かない。悲しいなあ。

「セラ、すっかり王太子妃様の事大好きみたいで……。王太子妃様のこと話す時だけはこんな感じに溶けちゃったような顔になるんです。ほら行きますよ、女官の連絡会に遅れたら大目玉食らうからね……」

「お姉ちゃん!では明後日お待ちしてますねー!」

「ええ、明後日。楽しみにしていますね。」


ドキドキとワクワクが止まらない。

「お嬢様、すっかり姉の顔でしたね。」

そうでしょうそうでしょう。セラティナと接していると、顔が勝手にこうなってしまうのだ。

とにかく明後日だ。楽しみで仕方がない。


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