第6話 マリーヤとして生き残るために
王子との婚約から数年が経過し、私は10歳になった。
お兄様も私も、数年後に大人の貴族の式典に大人として参列するための礼法や教養の指導が始まり、以前ほどは遊べなくなってしまった。
破滅対策に尽力しても、私自身の「悪役マリーヤ」の要素は、やはり仕方なくはあるが積み重なっていく。
例えば、作中においてバルフェリアに敵愾心を持つとされている二カ国、サタールやベルゼの役人との交流。
ゲーム本編ではマリーヤがこの二カ国とつながっているという事実の言われようや、彼女を打倒した後の二カ国の怒りっぷりは相当なものだった。
直接の国境の位置が遠く、また比較的寛容でおとなしいサタールはともかく、ベルゼ帝国は完全に怒り心頭で、選択肢を間違えると国が戦争に巻き込まれ、敗戦。そのまま処刑というとんでもないエンドも存在する。
片や信ずる神の違い、もう片方には元宗主国としての領土野心がバルフェリアに迫っている。「バルフェリアン・メモリアル」はあくまでも恋愛の物語であることや、国政の現状に対する知識を持たないセラティナの立場でものを言っていたために「なんとなく怖くて悪いこと」のように言われている。
しかし、考えようによっては両国との外交努力をする人間が必要だろう。
そして、自国との平和的な交渉の窓口を色恋沙汰の為に国政どころかこの世から追放するような愚策をするような王が治める国なら、小突けばどうにでもなると思われるのも道理か。
「マリーヤは『自分という存在は国家にとって必要不可欠な存在である。ゆえに自分は何をしても国家から懲罰を受けるようなことはない』という自認識のもと、権威を振りかざす悪党になり下がったというわけです。」
カロリーヌの説明に納得する私。
バルフェリア王国には義務教育の概念も何もない。貴族の教育も礼法や宗教に立脚した前近代の常識ばかりだ。
実際の政治のやり取りや宗教に曇っていないこの世界の科学知識、魔女達が欲に任せて振るう魔術の知識は自ら手を伸ばして学ばなければ身に着ける機会もない。
ゲームの中のマリーヤも、必死でこれらのものを身に着けたのだろうか。
マリーヤとして生きている今、それらが困難極まる実際の政治を回すうえでどれだけ重要かということを痛感している。
ゲームのマリーヤがセラティナへの妨害に用いた手段を、無論私がセラティナにするわけにはいかない。
しかし、この世界で「マリーヤ=アルチーナ」が生き残るにはこの手札を捨てるわけにはいかない。
悩ましく、おっかないことばかりが続いている。
バグなしでもマリーヤの人生は危険に満ちている。
「クソゲーじゃん……。」
「ここばかりは僕のせいじゃないですけどね……。」
「マリー、入るよ。」
頭を抱える私とカロリーヌのところに、事もあろうにお兄様が入ってきた。
「なになに、クソゲーを生き残るための作戦……?」
ああ、なんということだ。お兄様にノートを見られてしまった。
「そもそもクソゲーって何だというのはよくわからないけど、大変そうだな……。
王子の婚約も、政治のことも。
こういっちゃなんだけど、妹を託すにはあの王子ちょっと頼りなさそうだしさ。
まあ、これはたんに兄バカかもしれないけども。
こっちもカラクリ遊びに使えそうにもない法律とか経済学の勉強をしててもいい加減パンクしそうでいけないよ。
まあ、お互い大変だけど何とかしようよ。僕らは兄妹だ。2人がかりなら、きっと生き残れるよ。」
そういって、私の頭を優しく撫でるお兄様。
12歳になって、大人になりかけのお兄様の手はとても大きく、しかし柔らかかった。
「お兄様、頼りにしていますわ。」
「マリーが居れば、お兄ちゃんもきっと、大人になっても大丈夫だな。」
此処が作りものの世界だとしても、そうでなくても。私にはカロリーヌと、お兄様がいる。
きっと、大丈夫だ。
ゲームのマリーヤとは違う。私には理解者がいる。孤独な闘いじゃない。
夕陽の差し込む部屋で、私たち三人はお互いの顔を見つめていた。
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