第3話 街角での出会い
飛行機のおもちゃの一件以降、私とお兄様はいろいろとからくり仕掛けのおもちゃを作って遊んだ。
電気やモーターのような文明の利器無しでもカタカタと動くおもちゃ。
歯車をカタコトまわして何でも動かす私達を面白がったお父様とお母様は、街に出かける用事があるたび材料になる木材や学術的な先進国で知られるレヴァンやサタールで書かれた技術の本を買ってくれた。
その日もいくらかの木の串と竹材なんかを買って何を作ろうかとワクワクしていたところだった。
ドスン、と何かが落ちた音が響く。
急いで周りを見渡す私たちの前に、黄緑色の髪の少女が倒れていた。
年にして3歳くらいだろうか。
「あわわ……なんてことだ、公爵家のお方の道をふさいでしまうなんて!」
「セラティナ、早く起きなさい!……ああ!申し訳ございません!」
うろたえる彼女の両親と思しき男女は後。
今は泣いているこの子の心身のケアが先決だ。
「お兄様、ちょっとあの子を手当てしてきますわ!」
立場を気にしてうろたえるご両親の心配など知ったことかと言わんばかりに、痛みに我慢できず、その場で泣き続ける少女。
石畳の上で転んだこの歳の子供が、立場がどうとか言う前にまず痛くて起き上がりたくないのも仕方がないだろう。
私はまず、少女の足の砂埃をいくらか取り除いて自分用に持っていたハンカチで怪我の場所を縛る。消毒液なんかも欲しかったが、この時代ではギリギリまだ存在していない。
怪我の応急処置が済んでも、問題はまだ解決していない。
体のケアが済んだら心のケアだ。
どうにか心を上向かせるものはないか。
「マリー、痛いの痛いの飛んでいけするんだろう?だったらこれだよ!」
そういうとお兄様は、先日の「アリでも飛べちゃうぞ号」を出してくれた。
これならいけるか!
「痛いの痛いの……、飛んでけー!」
ブロロとプロペラが回り、私の手を離れた玩具は華麗な空中旋回を披露する。
白鳥のように優雅に空を飛んだ飛行機は、お兄様の手に綺麗に納まった。
「うわあ…!」
少女はその動きにすっかり魅せられたのか、ようやく泣き止んでくれた。
「何から何までありがとうございます!」
感謝するご両親。
「いえ、僕達は当然のことをしたまでです。」
後のゲームに出てくる「攻略対象の一人になるはずだった」彼の笑顔に重なる良い笑顔を見せるお兄様。
そして……
「マリーおねえちゃん、すき!」
小さな腕で私にギュッとする、少女。
名前を確か……セラティナ。
まさか。あの子が?
後の『バルフェリアン・メモリアル』の主人公、セラティナ・ネルソン男爵令嬢なのだろうか。
髪と目は同じ色だった。作中に出てくる彼女の両親が12歳順当に若返ったとするなら、確かにその姿はあの若夫婦と重なる。
だとするなら、彼女の12年後はこうなるはずだ。
お兄様のときと同じく、ゲームの説明書を添削するとこうなる。
「セラティナ・ネルソン 主人公 15歳に初めて、王太子の決定を祝う式典の出席で王宮を訪れる。真っすぐで優しく、しかし芯が強い少女。(が、魔女裁判で有罪となり、死刑になるエンドではその後本物の魔女として復活し、関係者を魔法で拷問したりおもちゃを壊して遊ぶような感覚で殺しまわる危険人物へと変貌する。)」
()の内外で人物像が180度真逆で、彼女が原因の破滅が随分と凄惨なものであることに怯えるが、彼女への対応は、何ならお兄様のそれよりも対応が簡単だ。
いじめなければいいのだ。なんなら前世の妹に接するように接すればいい、はずだ。
東で彼女が風邪を引けば行って看病をし、
西につかれた彼女がいれば行ってこれをおんぶし、
南に怯えている彼女がいれば行って「お姉ちゃんがいるから大丈夫だよ」と励まし、
北にけんかやいじめに遭っている彼女がいれば、行って彼女を背に庇い「くだらないことはやめろ」と言えればいいのだ。
「またあおうね!マリーおねえちゃん!」
その笑顔は、後のゲームで王子から愛の言葉のようなものをささやかれた時に彼女がふと見せるそれによく似ていた。
「また会いましょうね、かわいいお嬢さん。」
曇りない空の下、手を振り私達から離れていく彼女を見ながら、私は決意を新たにしていた。
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