芽生える気持ち

 ハム、それが私のふさわしい呼び名。誰かに取られるわけでもなく、嫌われる訳でもなく、ただただみんなが好きな食品。


そうあるはずだった。


 最近は、ステーキともサラミともたくさん喋っていてなかが良い。でも、そう思っていたのは私だけだった。最近ステーキが冷たい。何があったのか知らない。でも冷たく接してくる。そんな中、噂を耳にした。


「優輝さ、彼女できたんでしょ~。」

「そうそう、相手は、この学校一美人で秀才の彩なんでしょ~。」

「え、そうなの~。相手まで知らなかった、」

「でも秘密だからね。」


 こんな会話をたまたま聞いてしまったのだ。ステーキに彼女ができようとできまいとどうだっていい。たしかに、ステーキが転校してきたばかりの時にはなんだか少し惚れてしまった。でも、仲良くなっていくうちに全然そんな感情がなくなった。確かに面白いし頭も良いし、みんなが思う理想の人だった。彼女ができたっていい。けれど、冷たくするのはやめてほしい。せっかくここまで仲良くしてきたのに、これで話せなくなってっしまうのは嫌だ。

 だから、思いきって少し怒ってみた。

「何で最近冷たいのよ。サラミだって私だって友達としてこれからも仲良くしてよ。」

 それに反論するかのようにステーキは言った。

「僕にだって事情があるんだ。これ以上考えさせないでくれ。僕だって辛いんだ。だから、お願いだからもう話しかけてこないで。」

 その光景を、サラミはそっと見ていた。私は、あまりものすごい勢いの葉山(ステーキ)野言いっぷりに思わず、涙をこぼしてしまった。このときはよくわからなかった。本当の意味が。周りに私たち以外の友達はいない。放課後の第一公園の秘密基地で話していたからだ。そんなとき、サラミが静かにハグしてきたのだ。あまりにも唐突なタイミングで、全身が燃えるように熱くなった。サラミの中は暖かくて、ホッとする。それで、また涙が込み上げてきた。今度は、たくさんたくさん彼の中にいるまま泣いてしまった。それでも、ずっと何も言わずに抱いてくれた。まだ私たちは中学生。まだまだはやいのかもしれない。でもハグくらいセーフだと思った。私はそんな彼のことが昔から好きだったのかもしれない。サラミなんかに恋愛感情が湧くわけがない。それは自分の本当の気持ちから反したもので、本当は好きだったのだと思った。その瞬間、私の中のガラスの囲いが割れた気がした。




 俺は、ボロボロになる佐羅を見ているだけで実はものすごく辛かった。今すぐにでも、慰めてあげたかった。でも、年齢が若いゆえに抱きついたりなどしては絶対にいけない。そう心に決めていたのに、葉山が帰ったあとの佐羅の顔を見たら、勝手に体が佐羅の元へ動いていた。まだハグだからセーフと思い、佐羅が泣き止むまで抱き締めてやった。今告白はできない。けれども、好きの気持ちが押さえきれないほど佐羅のことが好きになった。すぐに告白したい。でもその気持ちを押さえて、佐羅を家まで送った。


取られる前に、俺は、佐羅をもらいに行く。

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