第15話 俺か

 「ひー君!」

エマが勝手に自室に入ってきた。


「小桜君からメッセージが来たよ。今度1対1で訓練付けてください、だって」


ダガーにオイルを塗る手が止まる。


「1対1? あの人、まだそんな実力じゃないだろ。できて後方支援だ」


「そうなんだけど、どうしてもお願いしたいって。まだまだだからこそ、ひー君との訓練で強くなりたいってことじゃない?」


「まあ、強さを願うのは当然だな」


オイルを伸ばしていく。


「日程はこっちの都合に合わせるらしいけど、どうする? 受ける?」


俺はダガーを見ながら言う。



「無論だ」



くすっと笑う声が聞こえる。


「だよね~じゃあOKしておくよ~」


「ああ、頼む」


「あ、ルールも送られてきた。あれ、こっちは堅海さんからだ。能力使用可、武器は木刀で、サイズ・数は自由。どちらかが降参を宣言、もしくは戦闘不能になった時点で決着とする、だって」


「問題ない」


「1対1だから、僕も隊長もいないんだよ~? 大丈夫?」


「問題ない!」


語気が強まった。同時にエマの方を振り向くと、彼はにやにやと頬を緩ませていた。


「そうだよね~。ひー君なら一人でも大丈夫か!」


じゃあがんばってね~、と言いながらエマはバタバタと部屋を出ていった。彼は常に騒がしい。


思わずため息が漏れる。


気を取り直し、ダガーを磨いていく。



 小桜、「最弱から始まる成長率の高い主人公」。そう、彼はエマと同じく主人公として作り出された。きっとすさまじい成長と共に活躍していくのだろう。


だが、そういう設定を授かっただけ、とも言える。どのくらい高い成長率なのか、成長に限界はあるのか等はおそらく設定されていない。最弱の段階でボツにされたのだから。


オイルを拭い取っていく。磨きのかかったダガーをライトにかざし確認する。


完璧だ。


 昔の俺なら、これ以上一人で戦うのは嫌だと嘆いただろう。


だが、今の俺にはエマというがいる。彼がいたから、俺はボツになっても更に強くなったのだ。


身も、心も。


今の俺なら、で一人でも戦える。


だから、問題ない。


相手が「主人公」でも、隣にエマがいなくても。



俺が勝つ。




あとがき

短っ!

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