第12話 二人の白虎

 「アイチケンニヒトガタ、ドウブツガタボツキャラハッセイ。カズオオシ」


とのことだったので、俺、エマ、隊長の白虎隊全員は取り急ぎ現地に向かった。


そこは、


「いなか、だねえ~」


エマがため息をつく。あたり一面畑ばかり。背後に山、遠くに点々と民家が見える。他には何もない。


「まあ、田舎の方が被害出にくくていいんだけどさ。ここまでだとね~」

「俺は田舎の方が好きだが」

「ありゃ、ひー君と意見が合わないとは……」


残念そうな表情を浮かべるエマ。そこに隊長が叫ぶ。


「柊! エマ! 通知が来たよ! 『カズトクテイ。ヤク38000』だって! 3万なんて、ど、どうする!?」


「案ずるな。すぐ終わる」


と俺が断言すると、エマも「じゃあ久々にアレやる~?」と笑顔になる。



次の瞬間、来た。



ボツキャラたちが音もなく姿を現す。


さすが3万8千というだけあって、その様は圧巻だった。それにしても、畑の真っただ中に出現したため畑が踏み荒らされた。これは後で報告せねばいけない。


何やら皆甲冑を着ており、馬に乗っている者もいる。おまけに縦長の旗を掲げている者も。間違いない。


「歴史小説から来たな」


エマも「みたいだね」と同意する。


「なんか鉄砲持ってる人が多いけど、まあ僕とひー君なら大丈夫か」


更にそう付け加えて、エマはこちらにウィンクする。


兵士たちは突然の自分たちの漏出にどよめいている。


「ここはどこだ」

「長篠城に向かっていたはずでは」

「なんだあの建物は」


その中の一人、馬に乗った男が俺たちに気づく。


「何者だ! 武田の軍勢の者か!」


「たけだ~? 知らないよ、僕たち」


エマが臆せず答える。


「我々は長篠城に行かねばならぬ! 即刻去ね!」


他の兵士たちもそうだそうだと動揺を抑え、こちらに敵意を向けてくる。


「どかないよ」


そう言ってエマは、こちらを見ないまま片手を俺に差し出してくる。俺も敵を見据えたまま、手を差し出す。



2人同時に力をこめて手と手を打ち合わす。



パンっとはじけたような音が鳴る。


それが、俺たちの能力共有の合図だ。


「行くぞ」


突如、隣にいたエマの姿が消える。同時に、次々に兵士たちが宙に浮かんでいく。


「な、なんだ!?」

「落ちる!」


再びざわめく兵士たち。


俺の「リンク」で瞬間移動を高速で繰り返しながら、エマは兵士たちに触れていく。「スカイハイ」が作動し、兵士たちは強制的に空中に放り出されているのだ。これで畑などへの被害を防げる。多少踏み荒らしてはしまったが。農家の人、すまない。後で麒麟隊が修復してくれるはずだ。


数分とかからず全員が空に浮いた。俺たち白虎隊も浮く。


ここからは空中戦だ。


兵士たちはバタバタともがいている。「スカイハイ」に慣れていない今がチャンスだ。


俺とエマが飛び出す。今なら「リンク」を使わず「スカイハイ」だけで対応できる。その分、俺も集中できて好都合だ。


手近でもがいている兵士の首をダガーで確実に斬っていく。彼らは続々と文字になって蒸発していった。ちなみに、俺もエマも基本的にダガーを愛用している。


「相手が慣れるまでに数を稼いでね」


と、耳のインカムから隊長の指揮が来る。わかってるよ、と思いつつ首だけに狙いを定めていく。右の3人、左の5人、さらに奥に飛んでいく。


首、首、首……すべてを斬っては飛び、斬っては飛ぶ。


何人削除しただろうか。


もう数もわからなくなってきた。


どくどくと心臓が大きく波打つのがわかる。

全身が熱くなっている。

昂っている。


それが、心地いい。


「あっはははははは!!」


視界の端でエマが大声で笑っていた。彼も興奮してきたのだ。


 もともと、エマは「優しく明るい男の子が戦争に巻き込まれ、戦闘狂に育っていく物語の主人公」だった。しかし、戦闘狂になった彼を作者は持て余した。前半とのギャップの大きさに作者自身が付いていけなくなり、エマをどう書いたらいいのかわからなくなったらしい。


でも、俺はそんな作者に感謝している。エマをボツにしてくれたからこそ、俺たちは出会えたのだから。


 馬の喉笛に斬りかかる。次にそれに乗っていた兵士の首、その後ろで呆然としていた者の首。次々と戦果が上がっていく実感に、俺も声を出して笑っていた。こんなにも戦いを楽しめることが幸せだった。


 俺の作者は、俺を「孤高の戦士」と設定した。主人公を序盤で助け、慕われつつも単独でしか行動しない。そんなキャラだった。そこでも俺は戦果を挙げ続けた。誰かが窮地に陥れば颯爽と現れ、敵を葬るとすぐにその場から消える。


誰かと酒を酌み交わすことも無ければ、笑いあうことさえない。そんな日々だった。結局、俺は一人の仲間も持たないままにボツにされた。理由はわからない。仲間ができる予定だったのかどうかもわからない。


俺はずっと一人だった。



それが、寂しかった。



 体勢を崩しながらも振るってきた兵士の槍を蹴り飛ばし、そいつの顔面を片手で押さえつけて首にダガーを突き立てる。


 だけど今、俺にはエマがいる。ふざけ合い、笑いあい、手を取り合って共に戦える、がいる。こんなに素晴らしいことがあるものなのか。


俺たちは有無を言わさずボツキャラを消していく。


手に伝わる感覚が、エマの笑い声が、この胸の高鳴りが、すべてが心地よかった。


ボツキャラは既に半分程になっていた。


「撃てえええええええ」


突如、その声と共に銃弾が一斉に飛んできた。目の前しか見えていなかった俺たちの前に、いつの間にか銃を構えた隊列ができていた。


その距離、わずか数十センチ。


弾が来る。



あとがき

自身もまたボツキャラである彼らの原作時の回想、入れてみました。考えるのは楽しかったです。読者の皆さんがどう感じたのかは不安ですが……

今日も一時間後にこの続き投稿します!ぜひ!

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