第11話 堅海の提案
「堅海さん!」
キャンプ地に着くなり、僕は彼の名を呼んだ。
彼はリビングで資料を読みふけっており、それに目を落としたまま、「大声出さないでくれますか、小桜殿」とだけ呟いた。
「あ、ごめんなさい」
堅海さんは一切こちらを見ない。話しかけるな、というオーラをひしひしと感じる。
でも、
「堅海さん、話があります」
今を逃したら、僕は一生今のままだ。
「後にしてくれますか」
「先日の古財さんのお申し出の件です。あれの決定を、やっぱり僕にやらせてください」
ぴくり、と堅海さんの片眉が上がる。やっと顔を上げてくれた。
「その件は私が決める、と申したはずですが?」
「でも、やっぱり僕がやりたいんです」
「だから言ったでしょう。あなたはまだ」
「わかってます」
彼の言葉を遮る。堅海さんは少しだけ驚いた表情を見せた。
しっかりと目を見て話す。
「わかってるんです。堅海さんが僕を隊長として認めてくれていないことも、実際僕が隊長と名乗るには未熟すぎることも」
堅海さんは黙って聞いている。
「でも、僕は隊長にふさわしい人間になりたい。あなたに認められたい。でもその方法がわからなかった。いくら考えても。だから」
そこで一つ、つばを飲み込む。
「だから教えてください。どうしたら僕を認めてもらえますか。どうしたら僕は隊長になれますか」
心からの、真剣な頼みだった。
それは堅海さんにも伝わったようで、彼は腕を組み、しばし黙った。
僕たちの間に沈黙が流れる。
1分経ったか、2分経ったか、僕が緊張でじっとりと汗をかき始めたころ、堅海さんはゆっくりと口を開いた。
「戦績。それが一番わかりやすいですね」
「戦績?」
「ええ。あなたの強さを可視化できる。相手は他部隊の誰かにお願いしましょう」
「え!? 他部隊と!?」
「合同訓練ということにすれば問題ありません。1対1で勝てたら、今回の決定権はあなたにお譲りします。ボツキャラを相手にすると、難易度にばらつきが出ますからね。塵芥会の隊員なら皆相応の力を持っていますから、実力を測るには適当な相手です。あ、『普通の男子高校生』の天沢殿はダメですよ?」
彼はうっすらと冷淡な笑みを浮かべた。
「隊長と名乗るなら、他の隊員に一騎打ちで勝てるくらいの実力が必須でしょう。示しがつきませんから」
「……」
言われてみると、確かにそうだと思えてくる。塵芥会の隊員は皆強い。他の隊長にはかなわなくても、せめて普通の隊員くらいには力で勝らないといけない、のかもしれない。
でも、できるのか? こんな僕に……
内空閑さんの話でも、戦績だけでは結局認められないんじゃ……
いや、逃げたらだめだ。
今、乗り越えるべきものが目の前にあるはずだ。
「わかりました。やります」
お腹に力をこめて、はっきりとそう言った。堅海さんは満足そうに前髪を直し、
「対戦相手は小桜殿が決めて構いません。誰になら勝てるか、よく考えてみてくださいね」
「はい、わかりました」
「ありがとうございます!」と言って深く礼をした。堅海さんは「ご武運を」と言い、資料読みに戻った。
僕は顔を上げると、すぐ自室に向かった。
やっぱり、まずは力を示さないと認められないんじゃないだろうか。内空閑さんはあんなこと言っていたけど。いや、力を示した上で、更に何かが必要、なのか? わからない。けど、とにかくこの一騎打ちには勝たないといけない。それは確実だ。
胸が高鳴っていた。
堅海さんに認めてもらえる……!
隊長に、なれる……!
あとがき
堅海って任務・仕事以外の時は何してるんでしょうか。私生活とか想像つかない……書かなきゃいいのか! そっか!
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