第二章 朱雀隊・白虎隊の決断
第8話 朱の先頭に立つ者
朱雀隊のキャンプ地にあの青龍隊・古財隊長が来てくださるなんて、本当に久しぶりのことだった。古財隊長の、青いマントを翻して敵をなぎ払っていく様は、心を奪われてしまいそうな程鮮やかなものである。
「黙っていればアンニュイイケメンなのに」なんて言われることもあるが、僕は彼を心から尊敬している。
しかし、そんな古財隊長が今日はアンニュイというより、どこかやつれて元気がないように見えた。
僕と堅海さんに挨拶を交わした後、古財隊長は僕をじっと見つめてきた。
「……小桜、君はいくつだ」
「え、僕の年齢ですか? 14です」
「そうか……」
古財隊長は、堅海さんに「まあお掛けください」と声をかけられるまで、そのまま僕を見つめたままでいた。そういえば、この間亡くなった青龍隊の新人さんも14歳だった気がする。会ったこともない方だったが、通知でその死を知った時は胸が痛んだ。
「それで? わざわざ古財殿が赴いてくるなんて、一体どうしたというのです?」
堅海さんが紅茶を差し出しながら訊ねた。
「ああ、他部隊の隊員全員、少なくとも隊長に直接会って頼みたいことがあるんだ」
「と言いますと?」
そこから古財隊長が語ったことはこういうことだ。麒麟隊には不審な言動が見られる、特にボツキャラの全削除は最適な命令と思えない、そういった麒麟隊の謎を暴くために協力してほしい、と。
「もちろん、今すぐ戦争吹っ掛けようって訳じゃない。なるべく平和にことを進めたい。そのためには、なるべく多くの隊員の同意が必要だと考えたんだ」
「で、でも古財さん。それって歯向かうってことじゃないですか……反逆は厳罰どころじゃ済みません。下手すりゃ削除ですよ?」
思わず身を乗り出す。
「承知の上だ」
古財隊長の表情は微塵も変わらない。既に腹は決まっているということか。
「確かに、古財殿の言うことにも一理あります。私が塵芥会に入ってから、会や麒麟隊のことも徹底的に調べあげましたが、麒麟隊に関する情報はほとんど出てきませんでした。巧妙に情報を隠匿している。確かに不信です」
顎に手を当てながら、堅海さんが言う。それを聞いて僕も、
「僕も古財隊長に賛成です! 殺さなくていいなら、なるべくボツキャラたちを殺したくない……堅海さんもそう思いませんか?」
「……まあ、不要な殺生に意味はありません」
期待薄だった共感を得られたことに、僕の胸は高鳴った。
「じゃあ、古財隊長、この件には朱雀隊も加わらせていただくということで……」
「はあ!? 何をおっしゃっているのです!?」
堅海さんがギロリと僕を睨み付けた。
「ひっ……」
思わず声が漏れる。
「ことの重大さがわかっているのですか? 朱雀隊の今後を左右するものですよ? それを、なぜあなたが一人で決断してよいと思えるのです!?」
僕はなぜ彼がこんなにも怒っているのかわからず狼狽した。古財隊長は静かにそれを聞いている。
「ええっと……すみません」
「この件に関しては、内空閑殿が任務から帰った後に再度検討すべきでしょう。あなたの独断でことを進めていただきたくありませんね」
堅海さんの目つきが鋭く、冷たく、そして暗いものになっていく。今までも何度か向けられたものだが、今回のは特に強烈だ。
「はい、本当にごめんなさい……」
はあ、とあからさまなため息をつかれる。
「古財殿、とにかくこの件は一度持ち帰らせていただきます。返事はまたのちほど」
「ああ、突然押しかけてすまなかった。大きな事案だということはわかっている。結論は3人でしっかり話し合ったのちに出してくれて構わない。我々は待っている」
古財隊長はそこで初めて紅茶に口をつけ、一礼した後キャンプ地を去っていった。
2人で古財隊長を見送った後、堅海さんは僕を見下ろし、「この際だからはっきりさせておきましょうか」と切り出した。
「あなた、『成長率が高い』なんて大層な設定をお持ちですが、その成長率とやらは最近どうなんです?」
「う……その、前よりはマシになったかと」
「内空閑殿の召喚獣に一度でも勝ちましたか」
「それは……ありません」
透き通った紫の前髪を払い、堅海さんは「そうでしょう」と呟く。
「つまり、あなたはまだ最弱の段階を超えられていないということです。私はそんなあなたが朱雀隊の隊長を名乗っていることに納得していません。アルパカの方がよほどマシなくらいです」
何も言い返せない。
それは自分でもよくわかっていることだから。
「隊長たらしめる力を持たないあなたが、これほどの重大案件の最終決定を下すに適しているとは思えません」
「はい……」
「この件の最終決定は私が請け負います。異存ございませんね?」
「っ……」
そんな。それじゃあ、僕は一体何だというのだろう。それこそ隊長でなくなってしまうのでは……?
しかし……
「……はい」
堅海さんは一つ頷くと、何も言わずに自室へと入っていった。僕は彼の部屋の扉を暫く見つめていたが、それをこらえて僕も自室に帰った。
ベッド上の枕を掴み、壁に投げつけた。
何も言い返せないそれが、床に転がり落ちた。
あとがき
近況ノートにも書きますが、昨日はネットにつながらず、更新できませんでした!悔しい!コンテスト終了日まで投稿するつもりですので、これからもよろしくお願いします!
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