32話 行き先

「ちょっと出てくるよ」


 通信を打ち切ると、好は羽交い締めにされたシャロットに叫んで、外へと走り出した。一部始終を聞いていた四人だが、好の考えがわかったのはシャロットとヒューゴだけだった。


「あんなに走ってどこに行くんでしょう?」

「私も馬や犬と話すときはあれくらい走るけどね」

「ヒューゴ、根回ししといてね。テナーも指示出すから部屋で待機。よろしく」


 大きな返事のカシワギ、一目散に走っていった。


「ベルはどうするの」


 ブレスロイの問いに、にやっと笑うシャロットは、これこそ彼女の本領であると大威張りだ。


「面倒をさせるのが私。面倒を防ぐのも私」

「……その手足となって働くヒューゴさんなので、ちょっと失礼。適当に報告しておきますね」

「はいはーい。頼むわよー」


 外で待っている直立不動のカシワギにシャロットは何事か呟いた。


「はい! テナー上等兵、中央軍に合流し、あとは流れに任せます!」


 鼻息荒くユニットを装着する。銘は直感フィーリング、カシワギの動きを完全に反映し、疾風のように北上する。


「中央戦線に連絡は?」


 ブレスロイは動物と常に触れていたいと言って、昔飼っていた犬の毛皮を軍服の裏に縫い込んでいる。それをなでると落ち着くらしく、今もそうやって、このわけのわからない状況に対応していた。


「エメルがするよ。私たちは……暇ね、どうしようか」

「お茶しよ。なんだかそんな気分」

「いいね。安っぽい紅茶も嫌いじゃないのよね」


 トラブルには慣れている第三部隊長のベル・シャロット、騎馬の動向に少しだけアンテナを向け、それ以外はどの茶菓子を食そうかと、それだけになっていた。

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