GGEのマカロニグラタン
ながくらさゆき
魔法使いのおじいさんのマカロニグラタン
カランコロン♪
喫茶店のドアが開いてドアベルが鳴る。男子高校生が二人入ってきた。双子である。
「じーさん、腹減ったあ」
「おじいさん、何か食べるものない?」
双子は高校の帰りだ。ここの喫茶ブルーレモンでバイトしている。よく似た双子である。
「ふぉっふぉっふぉっ、今日も元気じゃのう」
店長の小柄なおじいさんは美少年の双子を笑顔で迎える。
「今日も客いないのか?」
「割引券とか配った方がいいかな?」
「おぬしらの私語がうるさいってインターネットの
「なぬっ、俺らのせいか!」
「ええっ、ごめんね、おじいさん!」
双子は兄が
「あとまあ、メニューが少ないから飽きられてるみたいじゃ……」
「新メニュー開発するか!」
「お客さんが来てくれるメニューって何だろう?」
「まあ、
チン!
「ほれ、ピラフできあがったぞい」
「また冷凍食品か!」
「おじいさんの手作りが食べたいなあ」
「何を言う。このメーカーの冷凍ピラフはうまいんじゃ」
「そうだけどさあ」
「お客さんにレンジの音聞こえるの良くないんじゃない?」
「冷食だったら自分で買ってこれるしな」
「そうそう。買ってきた方が安いよね」
そう言ってピラフをたいらげる二人。
「ワシの得意分野はスウィーツなんじゃ。ブルーベリーパイとかレモンパイとか作るの好きなんじゃ」
「そういえば、じーさん魔法使いだろ」
「魔法でご飯出してほしいなあ」
「レンジ使わずに魔法であっためりゃいいじゃん」
「いいね。レンジの音聞かれなくて済むね」
そう、ここの店長のおじいさんは千年生きてる魔法使いなのだ。
「仕方ないのう。ナポリタン食うか?」
魔法使いのおじいさんは冷凍庫からナポリタンの袋を取り出し、叫んだ。
「じじんぷいぷい! ジジジのジジイ!」
ポンッ!
ナポリタンの袋がパンパンに膨れた。袋の中に蒸気がゆらゆら見える。魔法使いのおじいさんはナポリタンの袋を切り、お皿にのせた。
「ほれ、食え」
「呪文とポンッの音がなあ……」
「何事かと思われるよねえ……」
陽順と清順はナポリタンをフォークで巻き巻きしている。
「んじゃ、おぬしらが作ったらええじゃろ。フライパンで冷凍食品温めたらどうじゃ?」
「ハッ!」
「ウッ!」
陽順と清順はナポリタンを巻きつけたフォークをくわえたまま固まった。
「めんどうじゃろう? フライパン洗ってくれるのかのお? 新メニュー考えても作るのはワシじゃい。簡単なメニューにしてくれないと困るぞい」
「フライパン洗うのも、新メニュー作るのも魔法でなんとかしてくれよ」
「それだと呪文が何度も店内に響き渡るよ」
カランコロン♪
「すみません、今日何時までやってます?」
背が高い男の人が来店した。なんかすごく格好いいオーラを放っている。
「イケメンだな。モデルかな」
「シッ、聞こえるよ」
「おお、いらっしゃい。夜八時までじゃよ」イケメン好きの魔法使いのおじいさんはニッコニコしている。水の入ったグラスをトレイにのせ、かけよって奥の席に案内した。
「普段、案内なんてしないのにな。イケメンが来るとすぐ近づくな」
「シッ、だから聞こえるって」
「グラタンあります? どうしてもグラタンが食べたくて」
「グラタン……作るの大変そうだな」
「作ったことないけどね」
「何でも作れますぞい」
魔法使いのおじいさんは胸を叩いた。いつもより背すじがピーンとしている。
「じゃあ、マカロニグラタンで」
「かしこまりじゃ」
魔法使いのおじいさんはピューっと走って厨房に入った。
「大丈夫か? マカロニあるか?」
「買ってこようか? おじいさん」
「大丈夫じゃ、マカロニグラタンならここにある」魔法使いのおじいさんはそう言って冷凍庫からマカロニグラタンを出した。
「いいのか? イケメンに市販の冷食を出すのか?」
「わざわざ喫茶店にグラタン食べに来たおじいさん好みのイケメンに?」
「ふぉっふぉっふぉっ。今日イケメンがグラタン食べに来る予感がしてのお。昨日作っておいたんじゃ。ふぉっふぉっふぉっ」
「そんな予知能力あるのか?」
「さすがだね」
「だてに千年もイケメン
「グラタン、じーさんの手作りなのか?」
「いいなあ。僕も食べたいなあ」
「だ〜めじゃ。イケメンのお客さんにしか食べさせないのじゃ」
「清順だってイケメンだろ。こんなにじーさんに優しい美少年はいないぞ」
「陽順。そんな……陽順だってイケメンだよ。いやもちろん僕の方が格好いいけどね」
「いや俺の方が格好いいだろ」
「いや僕の方が格好いいから」
にらみ合う二人。
「くだらんケンカじゃのお。お客さん用のグラタンっつうことじゃ。そんなに食べたかったら、まだいっぱいあるから今度食わせてやるぞい」
「やった」
「わーい」
「よし、ではいくぞ。
じっじーんぷいぷい!
ジジジのジッジイィィィィィィイ!!!」
おじいさんは叫んだ。
「あっ」
「あーあ」
ポンッッ!!
マカロニグラタンは少し多めの焦げ目をつけて焼き上がった。ジュージュー音がする。
「うまそうだな」
「うん」
「ゼエッハアッ、ゼエッハアッ」おじいさんは力を使い果たした。「グッグラタンを……」バタリッ。
「大丈夫か、じーさん」
「イケメンに出すからって張り切りすぎ」
「清順、じーさんを頼む」
「グラタン、お願いね」
陽順はグラタンをイケメンの席へ。
清順はおじいさんを休憩室へ。
「お待たせ致しました。マカロニグラタンでございます」
「あの……なんかジジイって叫び声が聞こえたんですけど大丈夫ですか?」
「大変申し訳ございません! お騒がせしました!」
「ケンカでもしてたんですか?」心配そうに眉毛を下げているイケメン。
「ええっとお、こちらのグラタンは『GGE(ジージーイー)のマカロニグラタン』というのが正式名称でございまして」
「GGE?」
「はい。店長の自信作であります。GGEはグレイト・グローリアス・エリクサーの略でございます」
「グレイト・グロ……」
「はい。偉大な・輝かしい・万能薬という意味でございます。お客様に店長の手作りご飯で心身の疲れを癒やしてほしいという意味でございます」
「へえ……」GGEのマカロニグラタンを見つめるイケメン。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
陽順は精一杯の笑顔を見せ、ペコリとおじぎをして早歩きでイケメンのお客様から離れた。
うまくじーさんの叫び声をごまかせただろうか、グレイト・グローリアス・エリクサーなんて適当なことを言ってしまい、心臓がバクバクしている陽順。
GGEのマカロニグラタンを食べ終えたイケメンはレジに向かった。
「ごちそうさまです。おいしかったです」
イケメンのまぶしい笑顔を見て陽順はホッとした。
カランコロン♪ ドアを開けてイケメンは帰って行った。
「よかった。GGEのマカロニグラタン、おいしかったんだ……」
陽順はレジの後ろに崩れるように座り込んだ。
☆
「なあにが、ジジイのマカロニグラタンじゃっ」
「怒んなよ。じーさん。ジジイじゃなくてGGEだ」
「陽順が一生懸命考えてごまかしてくれたんだよ」
「覚えられんぞい。ええと、ぐれいと・ぎゃらくしー?」
「グレイト・グローリアス・エリクサー!」
「僕も覚えないと……」
この前来店したイケメンは人気モデルだったそうでSNSで宣伝してくれたおかげでGGEのマカロニグラタンは人気商品になった。通販で販売も始めた。でも家で焼くよりもおじいさんが魔法で焼いた方がおいしいらしい。
「じじんぷいぷい! ジジジのジジイ!」
おわり
GGEのマカロニグラタン ながくらさゆき @sayuki-sayuki
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