第4話 帝釈天を追って

「よし、これから、東京とうきょう葛飾かつしか柴又しばまたに行くじゃんね」

「そこに帝釈天たいしゃくてんがいるんやね?」

「ああ、柴又帝釈天しばまたたいしゃくてんと呼ばれる帝釈天題経寺たいしゃくてんだいけいじがあるじゃん」

「いや、僕は知らんかったよ」

「ワタクシのデータベースには刻まれておりますデス」


 集った途端にぴーちくぱーちくだ。

 うるさい阿修羅あしゅらに大王は呆れていないだろうか。

 観光バスは、もう新しい学校のものに変わっており、言いたい放題なのは、俺自身否定できない。


稚田わさだは、映画で知っているっす」

「ああ、とらさんじゃんね。俺んちから電車で一駅じゃん」

「そうか、東京とうきょうだったっすか。稚田わさだの暮らす寂れた町のシャッター商店街には、レンタルビデオが結構あるっすよ」


 一瞬、皆黙ってしまった。


「移動はどうするの?」

「新幹線は乗れないからなあ」


 それが原因だ。


稚田わさだは、実は、国宝館こくほうかんで、飛翔術ひしょうじゅつも一緒に降臨されたっすよ」

「いいじゃんね!」

「僕にも教えてよ。モテたいし」

「ワタクシももとからできる気がしていますデス」


 ラゴくんだけが押し黙っていたので、肩を叩いた。


「うびょー!」


 叫びながら、垂直に飛んでいく。

 その後、平泳ぎの要領で方向を横にし、水平に飛び続けた。


「これが、飛翔術ひしょうじゅつのようやん」

「お! 羨ましいじゃん。俺もヒーローになるべし!」


 再三再四、飛び跳ねてみたが上手く行かない。


「よっし、超感覚ちょうかんかくを使うべし」


 俺は、耳を澄まし続けた。

 ふと、遠くで糸を弾く音がする。

 阿修羅琴あしゅらきんだ。


「我と心を一つにせい」

「了解じゃね」


 気を込める。


「はーあ! そりゃあ!」 


 足下がスースーすると思った。

 俺の体は軽く、自在に舞える。


「できた! できたじゃん! 皆で飛べるようになって、時間を超越して柴又しばまたへ行こうじゃんね」


 ラゴくんとバチくんと俺はクリアだから、後は自惚れキャラケンくんと従順なシッタくんの尻を叩けばいい。


「ワタクシもアシュ様のデータを拾わせて貰いました」


 シッタくんが小さく「ヒショウ」と唱えると、すこぶる速さで飛び上がった。


「僕だって、孔雀のようになりたい! ギイー」


 キャラケンくんに、孔雀ってどれほど飛ぶかとは、突っ込まない。


「やめれや、キャラケンや。イケメン台無しやん」

「うるさいなあ、餅!」

「図星やん。酷っ。キャラケンは置いてこ」


 俺が上空にいるラゴくんを制した。


「やめるじゃん。俺達ヒーローじゃんね。ラゴくんには、後で甘い物を奢るから、こらえて欲しいじゃん。キャラケンくんには無尽蔵の力を感じるじゃん。置いて行かれないことを信じているじゃんね」


 皆で、東京とうきょうの空へ向かう。


「ゴー!」


 俺達四人は、飛び立った。

 広いと思っていた興福寺こうふくじ、それのみならず、京都きょうとそのものが小さく感じる。


「ちょっと、ちょっと! ちょっとー!」


 キャラケンくんもやればできる子、怖がりなだけだと思っていた。

 大丈夫だろう。


「ムーキー! 酷過ぎない?」

「おめおめ。飛べたじゃんね」


 俺は、カピバラの微笑で返す。

 先ずは五人の飛翔体は雁のように並んで、東京を目指す。

 高速で飛んでも息苦しくもない。

 寧ろ清々しいと感じていた。


「さて、舎脂しゃちー様を救う本物のヒーローになるじゃんね」


 俺の独り言は、風に掻き消えたのだろう。

 キャラケンくんは、シッタくんに、如何にお肌を大切にするかを語っていた。

 シッタくんは、「デス」を連発している。

 ラゴくんは、バチくんに、甘い物の美味しさについて話を聞いて貰っていた。

 さり気なく、まったりしたヒーローだと思う。

 俺の意気込みは軽くピンボケだ。


「まあ、ええじゃんかな」


 ◇◇◇

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