第9話 いただきます
テーブルにはそれぞれの料理が置かれ、いい匂いが漂っている。
「こんなに色んな種類あるなんて、中々ないよな。お母さん、いつもありがとう。」
「なんだか照れるわ。でも、今日は梨花と一緒に作ったからいつも以上に美味しいはずよ。」
「梨花もありがとうな。味わって食べよう。」
「いただきます!」
3人は時間をかけて夕飯を食べ進める。
いつもは5分くらいで食べ終わる父も、今日はゆっくりと食べている。
メガネが曇っても気にせず食べるのはいつも通り。
(お父さんらしいや。)
卵かけ用の出汁醤油をご飯に一周かけ、刻み海苔を卵の上にさらにかける母。
(いつも以上に海苔かけてるから真っ黒だ。)
オムライスのカレーソース添えなんて食べるのは初めて。美味しくて止まらない。
「これすごい美味しいよ。贅沢なオムライスだ!」
あまりにも美味しそうに食べるので、父と母は一口味見をする。
「あら、ほんと。これは店で出したら流行るかもね。」
「うん。これは合うねー。いいアイデア思いついたなぁ。」
食べ終わり、台所に食器を持っていく。フライパンを取り出し何かを焼く母。甘い匂いがした。
母が思い出のお皿を並べ、デザートを乗せる。
「これは、クレープだね!アイスに生クリームに、贅沢だねー。このソースは?」
「冷凍してた苺ジャムだよ。役に立ったわね。」
「いただきます!」
甘く冷たいデザートが口いっぱいに広がる。味わって食べてるつもりが、3人ともあっと言う間に食べ終わってしまった。
「食べちゃったね。美味しかった。やっぱりお母さんの料理は最高だ。ね、お父さん。」
「そうだな。最後の晩餐に相応しいよ。」
「2人ともありがとう。」
笑った母の目には涙がうっすら滲んでいた。
外は騒がしい。奇声が聞こえる。みんな正常じゃいられないみたい。最後だからみんなの好きにすればいいと思う。
でも私は騒がないで、家族3人で静かにその時を待つことに決めたんだ。
テレビを付ける。
落ちてくる惑星をテレビカメラに納めようとスタンバイしているようだ。
「どうする?テレビ、消す?」
「このまま付けてていいよ。きっと、落ちたら一瞬で全て消えるんだから。」
3人はソファーに座り、肩を寄せ合う。
地球の最後を見届けよう。
好きなものをお腹いっぱい食べて幸せだった。
ありがとう、お母さん、お父さん。
ありがとう、地球。
さようなら、みんな。
もし、また生まれ変わったらお母さんとお父さんの子供に生まれたい。
そしたらまた、美味しいご飯作ってね。
最後の晩餐めしあがれ 雨上がりの空 @ccandyy
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます