第5話 夢か否か

「だいたい皆の好きなのは分かるんだけど、食べたいのリクエストしてくれる?好きな食べ物と、人生最後に食べたいのって違ってくると思うの。」

「確かにそうだね。色々頭に浮かぶけど、最後の食事だと思うと中々決められない。お母さんはもう決まってるの?」

「お母さんも迷ってるよ。簡単には決められないわよね。」

「まだ夕食まで時間あるし、皆少し考えようか。お父さんもすぐには決められないよ。そうだ、家に酒ってまだあるよな?」

「ありますよ。今日は私も久しぶりに飲もうかしら。」


(あと数時間しか生きられないなんて嘘みたいだけど、本当なんだもんね。夢だったらいいのに…。)






ガチャーン!






突然外から何か割れる音が聞こえた。

カーテンを開けて外を見ると、向かいの吉田さんの奥さんが叫びながら何かを投げつけている。

(ん?何だろう、皿かな?)


何度も何度も、地面に置いた皿を掴んでは投げてを繰り返す。その顔はまるで楽しんでいるように見えた。普段は穏やかな吉田さんに何かが乗り移ったようだった。


その少し後ろの方で、吉田さんの夫が呆然と立ち尽くしていた。止めもせずただ立っているだけ。

2人に何があったのかは分からないが、あの声明を聞いたのがきっかけだろうとすぐに察した。


(夢じゃないんだ。これは現実なんだ。)


梨花はキューっと痛む胸を押さえ、何とか平常心を保とうとした。

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